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クローズアップ
今日の変動する国際情勢の中で、宗教と政治・経済などの諸分野はますます緊密な相互関係を深め、 文明の平和的共存には宗教間の理解が不可欠となっている。今回は、儒教研究の世界的権威、 杜維明ハーバード大学教授にインタビューし、グローバル社会における宗教指導者の役割や、 「儒教ヒューマニズム」が内包する現代的な可能性などについて語っていただく。
杜維明(トゥ・ウェイミン)氏
儒教ヒューマニズムの現代性
平成17年(2005年)6月2日掲載
ハーバード大学教授 杜維明(トゥ・ウェイミン)氏に聞く
杜維明(Tu Weiming)氏=1940年、中国雲南省生まれ。台湾東海大学卒業、 一九六八年ハーバード大学で博士号取得。プリンストン大学、カリフォルニア大学バークレー校で教鞭を執り、現在はハーバード大学教授(中国史・中国哲学・儒教学)、同大学燕京研究所所長。主に儒教的ヒューマニズムの近代的転換について研究。2001年の国連・文明間の対話年にあたってコフィ・アナン事務総長が招聘した「賢人会議」に儒教の代表として出席。同年全五巻の中国語による研究論文・エッセー集が刊行されたほか、英語・中国語の著書多数。
■公的知識人――宗教指導者に期待される役割
二十一世紀初頭の現在、政治や社会のさまざまな領域において、宗教の重要性は一層高まりを見せています。 一方、今日の世界で最も強力なイデオロギーは、おそらく西洋近代の啓蒙思想といえるでしょう。資本主義、 社会主義はともに、その影響を受けているからです。啓蒙思想は、合理化としての近代化に基づいています。 ですから政治や経済の指導者たちは、宗教は個人の心の問題として、公共の議論の場には持ち込まないように してきました。
しかしこの状況は今、急速に変化しつつあります。そして、世俗の指導者と同様に大きな影響力を持つ宗教指導者が 平和の構築に向けてより積極的に関与することが求められています。宗教指導者は、各自の信仰の領域に とどまるだけではなく、現実世界の状況の改善に献身することを通して、他の分野の指導者と同様に社会的責任を 担う必要があります。その意味で宗教指導者は「公的知識人」となることが期待されます。
そのためには、彼らはまず世界市民となることを志し、環境問題やテロ、貧困、暴力、ドラッグなど世界を取り巻く 大きな問題について、自らの属する信仰共同体がより広い対話に積極的に参画するようにつとめなければなりません。
公的知識人となり、各自の信仰共同体の言語とともに、世界市民としての言語に習熟することによって、宗教指導者は、 宗教的、精神的な問題を政治や経済、社会の議論に持ち込むことができます。そして、他の分野の指導者が より宗教的な事柄に鋭敏になるように促すことができるのです。
■「対話的文明」の時代
今日の世界は、新たな局面を迎えています。「軸の時代」(哲学者ヤスパースが提唱した歴史概念、 紀元前八〇〇〜二〇〇年前後)には、世界の主要な宗教思想が各地で出現し、独自に展開しました。 そして今日のグローバル化した世界で、これらの宗教は収斂の方向へと向かい、対話の重要性はますます 高まっています。このグローバル意識の台頭によって、現代を「第二の軸の時代」と位置づけることができるでしょう。
複雑化する環境の中で、諸宗教はそれぞれの考え方を合流させることで、人間の精神を高めることが促されています。 そのための礎となる相互理解を育むには、新たな文明の出現が必要です。それを私は「対話的文明」と呼んでいます。
対話的文明において、私たちは相互理解に到達し、それがひいては平和へとつながるのです。そして異なる宗教・ 文明間の対話で大切なことは、対話をプロセスとしてとらえることです。
そこでは「画一性なき調和」「多様性の中の統一」というあり方が重視されます。その中において ダイナミック(動的)な均衡が実現されるのです。儒教の説く「中庸」とは、単に穏健や妥協を指すのではなく、 非常にダイナミックな変容であると同時に、平衡と調和があることを意味するのです。

■現世を神聖視する儒教
儒教は、宗教というよりむしろ哲学や生活規範、社会倫理であるという見方もあります。また仏教やヒンドゥー教、 キリスト教、イスラム教などとは異なり、儒教は現実世界の外にあるスピリチュアルな領域というものを発展 させませんでした。儒家は、この世界そのものを自己を実現するための神聖な場所とみなしてきたのです。
そのため、この世界を内から変革していこうとする力強い現実参加への取り組みが見られます。その意味において 儒家は政治に関心を持ち、社会への参加意欲があり、文化的感受性にも富んでいるといえるでしょう。
しかし儒教は、世俗的なヒューマニズムとは異なります。私はそれを、包括的なヒューマニズムととらえています。
■「人類宇宙的」思想
「儒教ヒューマニズム」における最も高邁な目標とは、天と人間の合一です。儒教の伝統において、存在には 自己・共同体・自然・天の四つの次元があり、これらの統合が目指されます。
その第一の段階では、身体・心・魂・精神を統合することによって、完全な人間を形成します。第二に、 自己と共同体の有益な相互作用を図ります。共同体というのは家族、社会、世界など多様に解釈されます。 第三に、人間と自然の持続可能で調和した関係を築きます。そして第四に、人間の心と天の道の相互作用を実現します。 このような思想は、中国では古来「天人合一」といわれてきました。私はそれを 「人類宇宙観(anthropo-cosmic vision)」と呼びます。
■人間は共同創造者
一神教の伝統では、神は自らの姿にかたどって人間を創造し、人間がすべての生き物を支配すると説かれています。 しかし儒教における人間は、世界の変容に積極的に関与することを通して、共同創造者となります。そして人間社会、 自然環境をはじめあらゆる存在に対して責任を持つことにもなるのです。つまり、儒教は人間中心主義的 ではありません。
あらゆるレベルで調和を大切にする儒教ヒューマニズムは、多様性を尊重する世界観と、より広い倫理的基盤を 提供することにより、今日のグローバル社会において重要な意義を持ち得るのではないでしょうか。

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このページの最終更新日2005/09/16