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クローズアップ
世界で仏教の各宗派がもっとも多く集まっている都市は、アメリカのロサンゼルスであるという。そこには南方仏教、 チベット・中国・日本・韓国の仏教など八十を超える宗派が存在しているといわれる。すでに仏教は、アメリカの宗教と なったといえるのではないだろうか。今回は、日米の仏教事情に精通し、仏教と諸宗教との対話を研究領域とする 武蔵野大学のケネス・K・田中教授にインタビューし、アメリカにおける仏教の現状とその特色・形態について 語っていただく。
ケネス・K・田中氏
社会に溶け込むアメリカ仏教
平成17年(2005年)9月15日掲載
武蔵野大学教授 ケネス・K・田中氏に聞く
ケネス・K・たなか氏=一九四七年(昭和二十二年)山口県生まれ。日系二世の両親と五八年に 渡米。七〇年、スタンフォード大学卒。七三年、米国仏教大学院修士課程修了。七八年、東京大学大学院博士課程退学。 八六年、カリフォルニア大学バークレー校大学院博士課程修了。哲学博士(仏教学)。八四年、米国仏教大学院大学 専任准教授、九八年、武蔵野大学教授。
  近著に『The Faces of Buddhism in America』(共編、 一九九八)、 『真宗入門』 法蔵館 (二〇〇三)、 『Pure Land Buddhism』(二〇〇四)。
■アメリカ仏教の現状
全米で仏教徒の数は、明確ではないが、約三百万人といわれ、アメリカの全人口の約一%にあたります。これは、 日本のキリスト教徒の比率に匹敵します。しかし、仏教に興味のある人は、もっと多いと思われます。正式な仏教徒では ないが仏教に強い影響を受けた支持者はシンパサイザー(sympathizers)といい、その数を含めると仏教への参加者は 数倍になるでしょう。
こうした寺院には行かないが、個人的にメディテーションを行ない、夜自宅で床に就く前に仏教書を読む人々は、 専門家の間で「ナイトスタンドブディスト」と呼ばれています。彼らは、既成宗教や宗教団体へのかかわりを拒み 「宗教」よりも「霊性(スピリチュアリティ)」を求めている。このような霊性に関心を持つ人が仏教に引かれたと考 えられます。
また、アメリカの大学では仏教学が盛んです。ほとんどの大学に何らかの形で仏教に関する授業があり、規模の大きい 大学では、仏教を専門とする教員も最低三人おり、さらに充実した仏教学課程をもつ大学は、十を超えています。 仏教に関する博士号取得者が、一九九六年から九七年の二年間で、七十九人出たことも、仏教への相当な関心の 高まりを表わしているといえるでしょう。
■アメリカ仏教の種類
アメリカにおける仏教のグループは、大きく四つに分けられると考えています。
まず、十九世紀に伝わったアジア系アメリカ人の仏教で、主に日系、中国系のもの。そして、一九六〇年以降に 伝わった東南アジア、ベトナム、韓国、台湾系のものです。これらは、移民がアメリカに持ち込んで発展した仏教 といえます。
そして、仏教に改宗したアメリカ人の仏教で禅、チベット仏教、南方仏教など瞑想(メディテーション)を行の中心に するグループ、もう一つはSGI(創価学会インタナショナル)USAなど、題目を称えることが行の中心であるグループです。 前者は、白人で教育レベルが高い比較的富裕層に支持され、後者は、黒人やヒスパニック系も含め多人種に支持され ている点に特色があるといえるでしょう。
■アメリカ仏教の特色
アメリカ仏教には、五つの特色を挙げることができます。
まず、出家と在家との差や男女差がない「民主化」の傾向が強いことが挙げられます。インサイトメディテーションという アメリカで大きな勢力を持つ一派では、女性の教師が約半数を占め、出家者がいないのが大きな特徴となっています。
次には「実践(practice)」の重視で、アメリカでは、日常に宗教の効果が理解できることが強く求められています。 アメリカ人は、教理よりも「リラックスできる、集中力を高められる、健康にいい」など、日常的なメリットがある修行法の 一つであるメディテーションに魅了されるのです。
そして「心理学との類似性」を指摘できます。これは、カウンセラーやセラピストが仏教に非常に関心を持っており、 トランスパーソナル心理学など心理学と仏教の統合が進んできていることからも説明できます。段階的に二つの領域を 整理していくことで、独自性を際立たせ互いの効果をはっきりさせる研究も進んでいます。
もう多くの説明が不要になった「参画仏教」と訳される「エンゲージド・ブディズム」もまた、アメリカ人の一般的な宗教観が 特徴的に表われたものです。イラク戦争の反対活動などで知られるブディスト・ピース・フェローシップ (Buddhist Peace Fellowship)など社会的活動を目指す団体が人気を集めています。宗教は、社会にどのように かかわっているかが求められている。仏教も例外ではありません。
最後に「個人化」が挙げられます。アメリカでは、非組織化、個人化した宗教のかかわり方をする人が増えている。 宗教の多様化のなかで、すべての宗教が相対化されグローバル化した社会で、従来の個人主義のベースに乗って 自分しか頼れない厳しい状況がある。このような背景がアメリカの仏教にあります。
これらの特色からも、体得した仏教の普遍的な真理を日常の生活でどのように維持していくかという課題に対応した 仏教のグループが特に伸びているといえます。

■仏教はアメリカの宗教になったか
宗教多元主義を唱えたハーバード大学のダイアナ・L・エック教授は「仏教はすでにアメリカの宗教である」と論じている。 有名人である仏教徒や支持者がマスコミで取り上げられ、仏教に関連、影響を受けた映画や本がヒットしていることから も、有名人を含む人種を超えた広い支持を受けていることを表わしています。また、アメリカでのダライ・ラマの影響力は すごいですね。
いまや禅・メディテーションセンターは、どの町にもあるほどです。日本のキリスト教徒の社会における貢献度は、その パーセンテージ以上のものがあるといわれますが、アメリカでは逆の立場になっているといえるかもしれません。
■テレビ説法の意義と可能性
このようなアメリカでの仏教の現状を踏まえ、仏教伝道協会がアメリカのロサンゼルス地区で今年一月から毎週日曜日に放映しているテレビ説法に 私は企画等で協力しています。この番組は、宗派や国を超えて仏教を説くもので、日本で製作し英語で放映する仏教 伝道の新しい形態であるとともに、放映自体もアメリカで初めての試みであるといえます。また他の宗教番組は各宗派、 教会が提供し寄付を募りますが、この番組では、超宗派で具体的な見返りを求めていない点でも珍しい。
この放送の開始は、仏教がアメリカの宗教になったという一つの重要なケースになるでしょう。今後は、主要都市への 放送地域の拡大や信者の獲得に結びつくような体制がさらに整っていくことを願っています。

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このページの最終更新日2005/12/17