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ミャンマー政府仏教会派遣僧
ウ・ヴィッジャーナンダ
大長老

永遠に続く幸せはない

北九州市門司区にある 「世界平和パゴダ僧院」 在住の ウ・ヴィッジャーナンダ大長老(56)は、 昭和五十一年八月、 日本仏教界の招請を受けて ビルマ政府仏教会 (当時) から派遣され、 日本で上座部仏教の布教活動につとめている。 母国ミャンマーで出家し、 二十二歳で 「ダンマチャリー」 の学位を取得、 『パーリ語ビルマ語辞典』 編纂にも参加した学僧である。 日本では平成七年に、 仏陀が説いた 「ウィパッサナー観法」 を日本語訳で紹介した 『ミャンマーの瞑想』 を出版した。  近年、 在家信者を中心に 「仏教の原点を学ぼう」 との兆しがあるものの、 大乗仏教主流の日本では 上座部の仏教はなじみにくく、 広まりにくい。 しかし、 仏陀の教えを深く知ろうとすれば上座部の 知識が必要となる。  来日以来二十五年間、 戒律厳守のミャンマー僧の生活を実践している行学兼備のウ大長老に、 日本での布教の苦労などを聞いた。  
平成13年2月3日の中外日報紙面から

 来日された時の日本の印象はいかがでしたか。

 ウ大長老 たいへん物が豊かであるというのが第一印象でした。 同時に、 心について何か足らないものがあるのでは――という想いをもちました。

 五年前に 『ミャンマーの瞑想』 を翻訳された真意は?

 ウ大長老 日本は中国禅の影響を受けて只管打坐や公案禅が主流ですね。
  「止」 だけが実践されているようですが、 「解脱」 を目指す仏陀の瞑想とは違います。 仏陀が説かれた瞑想は、 方法として 「止の修習」 「観の修習」 の二つがあり、 「観の修習」 なくして悟りはありえないと説いています。 ミャンマーでは伝統的にこの二つの修習が実践されています。
  『ミャンマーの瞑想』 は釈迦が説かれた 「大念 (四念) 住経」 を、 マハーシ長老が自身の体験に基づいてビルマ語で発表した 『ウィパッサナー修行書』 の初の日本語訳です。 日本で最初に 「観」 の瞑想法であるウィパッサナー (観法) を紹介した書です。 原書は、 英訳され、 ミャンマー国内だけでなく世界中の多くの人々に親しまれ、 実践されています。

 ウィパッサナー観法の修行方法とは?

 ウ大長老 あらゆる現象をありのままに観ることです。 それは自己を見つめることによって自己を清浄にする過程でもあるので、 まず精神を集中するために自然な呼吸を観察することから始めます。 そうするうちに、 すべてのものは移り変わっている、 苦悩である、 非我であるという真実を体験するのです。
 自己清浄と完全な悟りを究極の目的として、 苦悩のもとになる三つの要因、 貪欲・怒り・愚かさを滅ぼすのです。
 修行は坐ることから始まります。 自分に適した坐り方であれば、 どんな坐り方でもいい。 まず、 腹の動きを意識してください。 膨らんだり引っ込んだりしているのが分かりますね。 下腹部の起伏はいつも呼吸によるものであり、 膨らみや引っ込みを念じることから修行が始まるのです。
 修行が進むにつれ、 すべての形状にとらわれなくなり、 身体 (色) と精神(名) が別々のものであることが明らかに自覚できるようになるのです。

 心の中に現われることが、 ありのままに分かるようになるのでしょうか。

 ウ大長老 人間の幸不幸は、 各人の奥底に存在している欲望に因来するものですが、 それを知っている人は極めて少ない。
 永遠に続く幸せは存在しないのに、 人は無理矢理に幸せが長く続くことを祈願する。 そのことがまた不安や不満、 心配を生み出すことになる。

 諸行無常ということですね。

 ウ大長老 地球上の空気や川の流れも、 一瞬たりと止まっていません。 そのことを知ることができる程度に念じていれば、 それに従って智慧も熟してきます。 生滅ありのままを知ることができるのです。

 現在の日本は、 経済大国でありながら、 人々から希望が失われているように思えます。

 ウ大長老 豊かさからいろいろな問題が起きているような印象を受けます。 しかし、 今の日本人、 ことに知識人の間に、 仏陀本来の教えを学びたいという気持がこれまで以上に強くなっていると感じます。 物質的なものから、 心に関することに興味をもちはじめているように感じます。

 昨秋、 パーリ語仏典最古の聖句集 『ダンマパダ』 (法句経) のアップグレード版全一巻が大長老の監修で出版されました。

 ウ大長老 これは熱心な在家信者の北嶋泰観氏が十数年の歳月をかけて 完成させた貴重な書です。 『ダンマパダ』 の四百二十三詩句を日本語に訳しただけでなく、 パーリ原文と英訳も併記し、 詩句の背景となった因縁物語と語句の注釈も記されています。
 因縁物語の中によく出てくる禅定作用・聖道作用・滅尽定作用・ 涅槃など仏教を正しく理解する上での基本的な事柄が詳しく説かれています。 これは、 日本で初の本格的な上座部仏教入門書といえます。

 二十一世紀は心の時代になるといわれて久しいのですが、 新世紀の仏教のあり方はどのようになるでしょうか。

 ウ大長老 二十一世紀はさらに科学技術が発展するでしょう。 その流れの中で仏陀の教えはますます必要になり、 世界中のより多くの人々に受け入れられるでしょう。 なぜなら、 仏陀の教えは原因と結果を説いているからです。 たいへん現実的であり、 かつ合理的な教えです。
 仏陀が説かれた真理を悟るのに民族の違いや男女の差別はありません。
  (聞き手=大阪支社・大羽幹夫)