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桂 七福氏


落語で迫るチベット問題

落語家   桂 七福氏

   「チベット問題を高度で深刻な問題として遠ざけることなく、限られた議論の場からお茶の間や庶民の井戸端会議の俎上に引っ張り出したい」。同じ仏教徒でもあるチベット人の苦境に心を寄せる僧侶の発案により、日本の庶民芸能・落語でチベット問題に迫るユニークな試みが企画された。挑戦するのは、古典落語のほかに人権、教育をはじめ多様な題材を取り入れた落語や講演活動を展開する上方落語の噺家・桂七福さん。半年にわたり実行委員会を重ね、今月二十五、二十六日に大阪市天王寺区の浄土宗應典院で開催される「ちべっと寺子屋ふぉーらむ」で世界初の「チベット落語」を上演する七福さんに、意気込みを聞いた。(聞き手=高橋由香里)
  (平成21年4月21日の中外日報紙面から)

  「チベット落語」に取り組まれたいきさつは。

  去年の北京オリンピックが終わったころ、長野の岡澤慶澄さん(真言宗智山派長谷寺住職)からチベットについて広く伝えるきっかけとして落語を利用できないかという相談を受けたことが最初です。私自身チベットに関する知識はあまり持っていなかったのですが、報道を見ても状況がとても分かりにくい。チベット問題を落語に、という話を頂いた時、私も学びたいので、知識を与えてくれる人が協力者の中にいて勉強会を重ねることができれば可能だと思います、と答えました。

  その後、実行委員会が組織された。

  最初は岡澤さんと私だけだったのですが、岡澤さんが協力者を探して、大阪の應典院(山口洋典主幹)が会場を提供してくれることになった。そこを中心に集まったらどうだろう、一般のさまざまな人に協力を呼び掛けたらどうだろうということで、だんだんメンバーが増えていきました。チベットの専門家である平岡宏一先生(清風中学・高校副校長)が指導してくださり、去年の十月から毎月一回勉強会を続けてきました。

  台本を作る上で心掛けたことは。

  まず、分かりやすさですね。チベット関係のイベントというと、マニアックになったり、反中国という主張が目立ったりすることが多い。そうではなくて、子どもたちやおじいちゃん、おばあちゃんが聞いても分かるというのが一番大事だと思います。
  チベットはどこにあるのか、どういう風土、文化、宗教なのか、というところから、今こういうことになっているんです、皆さんこれを取っ掛かりにいろいろなことを知ってくれたらありがたいですね、と。

  演題は「チョビット・チベット」ですね。

  楽しげな雰囲気でバカバカしく、と皆でいろいろな言葉を出し合う中で出てきた一つです。チベット問題はえらく深刻なことなんだけど、こいつタイトルからふざけてるな、と思ってもらえたらいいかなと。
  話としては、いわゆる上方落語の旅ネタです。古典落語に出てくる登場人物がチベットへ行き、そこで不思議な体験をするという。
  ちょっとした駄じゃれや笑いのエッセンスが入っていて、笑ったけどこれは笑いごとでないぞ、というものを持って帰ってもらえたらいいですね。

  チベット問題に「笑い」でアプローチするというのは、国内外でもあまり例がないのでは。

  落語イコール笑いの文化ですから、それをバックボーンにしてチベットのことを何か創作するというのは果たしていいのかなという迷いは今でもあるのですが、これを一般の人がどう評価するか。
  チベット問題を笑いに変える、落語にするとは何と不謹慎な、と思ってくれてもいいし、何か分からんけど大変なことになっているんやな、ということだけでも伝わったらいい。皆がそれぞれ何か考えてくれたらありがたいですね。チベットだけではなくて、あちこちにいろいろな問題があることに気付いてほしいという思いもあります。

  以前から落語に人権や福祉、教育などのテーマを取り入れた活動をされていますね。

  それは自分の生い立ちから来ていることです。幼少時に両親が離婚して母子家庭になったのですが、母親の職業のことでアパートを追い出されたり、落書きをされたり、子ども同士の付き合いを向こう側の親に切られるといったことがありました。後にそれが偏見であるということを知ってから、こんなのおかしくないか、と考え出したら、差別とか高齢者や障害者の問題もあるし、と言いたいことが広がっていった。
  自分が小さいころに体験したことで、あれは大人が子どもに対する言動としては間違っていたんじゃないかな、ということをピックアップして話せばそれが教育や子育てのテーマになる。ですから自分のことを話していたのがそもそものきっかけですね。

  難しい問題も楽しみながら理解できる幅の広さ、度量の深さが落語にはあるのですね。

  落語の型を借りると表現しやすいんですよ。学校の講義のようにずっと話すのではなく、落語は演じる部分が大きい。会話や情景描写を再現するときに、一人で何役も演じ分けながら表現して伝えるというのはとても便利なものです。

  江戸時代から親しまれ続けているということは、それだけ日本人の心に訴える力があるということですね。

  物や機械は便利になったけれど、人間の喜怒哀楽というのは四百年たってもさほど変わっていないんだろうと思いますね。昨今の落語ブームというのは、言葉でのコミュニケーションが減った分、どこかで言葉のやりとりを欲しているのではないでしょうか。
  落語は誰かの悪口や他人をさげすむような笑いではなく、言葉の積み重ね、言葉遊びで楽しんでもらうというものです。百人が笑うために一人を犠牲にしなければならないのは本当の笑いではないですね。皆が共感を持てるという「真の笑い」が落語の根底にあると思います。

  「チベット落語」は應典院での上演後も続けられますか。

  声が掛かればいろいろなところでやりたいと思っています。第二弾、第三弾といろいろな話を作っていけたらいいですね。


  かつら・しちふく氏=昭和四十年、徳島県生まれ。平成三年、四代目桂福團治氏の弟子となり、作家藤本義一氏により桂七福と命名される。現在、故郷徳島を中心に活躍。同県内三ヵ所で定期的に落語会を開催するほか、全国で落語・講演活動を行なっている。徳島地元放送局でラジオ・テレビ番組も担当。