■森林保護の「チプコ運動」について。
バフグナーチプコ運動は、一九七三年に北インドのウッタラーカンド地方で始まりました。「チプコ」とはヒンディー語で「抱擁」を意味します。地元の女性たちが中心となり、樹木に抱きつくことで伐採を阻止するというものです。
私たちはフォークソングを用いて人々の心にガンディー主義のメッセージを伝えながらヒマラヤの村落を巡り歩きました。最も長い行進は五千`近くにも及びました。運動は次第に大きな広がりを見せ、一九八〇年には当時のインディラ・ガンディー首相によって、この地方で高度千b以上の森林の商業目的による伐採を十五年間全面的に禁止することが法令化されました。
■長年、テーリー・ダム反対運動にも携わっていますね。
バフグナー私たちはヒマラヤの脆弱な自然環境に甚大な影響をもたらすダムの建設に対して、十七年間反対運動を行なってきました。しかしダムの建設は続けられ、近年稼働を始めました。私と妻の故郷であるテーリーの町をはじめ数多くの村落が水没し、十万人もの住民が立ち退きを余儀なくされました。
ダムは永久的な問題に対する一時的な解決策にすぎません。ガンジス川の水源であるヒマラヤの氷河は、温暖化と森林伐採の影響で減少を続けています。将来的には水不足の問題が深刻化し、ダムは三十年ほどしか利用できないと分析する専門家もいます。政治家たちは目先のことしか頭にありません。けれども私たちは、数世代先のことまで考えていく必要があるのです。
■文明の発達と環境保護の両立は大きな課題ですね。
バフグナー現代文明は物質主義に偏った開発や経済成長をなし遂げるために、自然を搾取し、商品化してきました。その結果、文明の発達に伴い、自然の破壊はますます進んでいきます。このような状況が続けば、いずれ自分たちの破滅を招くということを人間は自覚するべきです。
私たちの運動は「Ecology is permanent economy.(エコロジーは永続する経済活動)」をスローガンにしています。現代人は自然との共存を図り、持続可能な発展を目指さなくてはなりません。私たちには祖先から受け継いだ地球を未来の世代により良い状態にして残していく義務があるのです。
■ガンディーに学んだ最も大切な教訓とは。
バフグナー私たちは非暴力的な手段によって物事を変えていかなければならないということです。悪に対してさらなる悪や暴力で報いることは、問題の解決にはつながりません。
またガンディーは、インド古来の精神的伝統のメッセージを伝えました。それは、人間は肉体だけではなく、魂を持つ存在だということです。人間の真の成長とは、自己の魂を知ることです。現代人は外側の肉体ばかりを重んじ、内なる魂の存在を忘れています。
しかし、魂の力こそ人間の最も大いなる力です。肉体は滅びても、魂は滅びることはありません。それは古来の人類の偉大な師たちの教えであり、ガンディーはそのことを現代において示したのです。
■環境保全に向けて、具体的な実践として心がけるべきことは。
バフグナー一つ目は、質素・禁欲(austerity)です。できる限り節制した生活を送ること。禁欲主義は、あらゆる宗教における第一の原則でもあります。私たちは「必要」は満たすべきですが、「欲望」を追い求めてはなりません。
二つ目は、代替策(alternative)です。農業や産業などにおいて、自然を傷つけない手段を選ぶこと。
三つ目は、森林造成(afforestation)です。森林は二酸化炭素を吸収し、新鮮な酸素を生み、水を浄化し、土壌を保全します。さらに食物や飼葉、燃料、肥料、繊維などの恵みをもたらします。樹木を植えることは、地球をよみがえらせるための最も簡単で有効な方法です。人類の未来は植林にかかっていると私は確信しています。
■現代社会における「真の豊かさ」とは。
バフグナー今日の文明社会の物質的な繁栄は、真の豊かさではありません。なぜならそれは自然を搾取し、他の犠牲の上に成り立っているからです。真の豊かさとは、人間だけではなく、あらゆる自然界の生物をも含むべきものです。今日までに、人間による自然破壊のために多くの生物種が地上から絶滅していきました。生態系の多様性という点から見れば、祖先の時代と比べて現代は非常に貧しくなっています。
私たちは、他のあらゆる生物にとっても平和で幸福な状態が実現することを目指さなくてはなりません。それは、ガンディーが「サルボダヤ(すべての繁栄)」という理想において夢見たことでもありました。
■運動を通じて、目標にされていることは。
バフグナー失われた自然と人間のつながりを回復することです。自然と人間の関係は本来、母と子のようなものです。しかし現代人は利欲によって、母なる自然の「虐殺者」と化してしまっている。自然との調和的な関係の回復は、人間があらゆる貪欲を捨てた時に可能となるでしょう。
人間は自然を搾取するのではなく、むしろ心と手を用いて自然を「昇華」していくべきです。自然の破壊行為は戦争や公害、飢餓などさまざまな弊害をもたらしますが、自然の昇華は「文化」を生み出します。
インドには昔から森林の文化があります。リシ(聖者)たちは森の中に隠棲し、生命の叡智を育んできました。その教えによると、人間のみならず、鳥や動物、樹木や山、川など自然のあらゆる存在には神性が宿っている。私たちが万物に尊敬の念をもってかかわるようになれば、人間が自然から恩恵を受ける一方で、自然も繁栄を続けることができるでしょう。