■龍谷大学の三百七十年の歴史をひもとくと明治期以降のわが国の教育制度改革の先駆的役割を担うなど、「進取の気性」という特色が読み取れますね。
若原道昭学長明治初期に本願寺は、ヨーロッパなどを視察した島地黙雷らの提言により教育制度の改革を行ないます。寛永十六年(一六三九)に寺院子弟育成のために創設された学寮(龍谷大学の前身)を大教校とし、これを中心に全国九ヵ所に中教校、各都道府県に小教校を設置しました。
これは現在の小学校から大学、大学院に至る教育制度の先駆けで、大教校では従来の真宗学、仏教学に加えて教養科目の講義も始まり、寺院子弟以外の一般子弟にも門戸を開放しました。
戦後は親鸞聖人700回大遠忌を記念し昭和三十五年(一九六〇)に深草キャンパスを開設、翌三十六年には経済学部が設置され総合大学への歩みが始まりました。特に平成元年(一九八九)には創立三百五十周年を記念し大津市瀬田に瀬田キャンパスが開かれ、当時は仏教系大学初の理工学部と社会学部が設置されています。
■近代以降の大学の規模拡大過程で、建学精神はどのように維持されてきたのでしょうか。
若原学長建学の精神に基づく教育は浄土真宗の教えの布教、伝道ではありません。本学では全学生必修科目の「仏教の思想」で知識、教養として仏教や浄土真宗をきちんと教えるとともに、自由参加の宗教行事で情操面での宗教教育を行なっています。
そして仏式で行なわれる入学式、卒業式や大宮、深草、瀬田の三キャンパスに設置の礼拝施設、さらに三百七十年間の本学の歴史の中で育まれてきた宗教的環境などに接します。仏教に「薫習」という言葉がありますが、学生たちは自然と仏教的なものの考え方を身につけてくれていると思います。
■今の世の中は世界的な規模での競争社会となり、若者たちは自らの存在意義を見いだせず苦悩しています。そうした状況で龍谷大学が宗教的教養や情操を身につけた人材を育成することの意義は大きいですね。
若原学長競争社会で勝ち残れる人間、有用な人間を効率良く育成することが学校教育の目的となっている側面は否定できません。勝ち残るための新しい知識や技術を生み出せる創造的な人間を育成することは必要なことかもしれませんが、私は違った意味での創造力ある人間が求められていると思います。それは複雑化、多様化した現代社会の課題を主体的、自主的に解決できる創造的な人間です。
仏教の基本はあらゆるものが互いに支え合って存在するという縁起の思想です。グローバル化した世界、社会では一国や特定の地域の中だけで問題を解決することはできなくなっています。
広い視野でさまざまな歴史や文化を持つ国々や地域が共存、共生するには何が必要かを真摯(しんし)に考えねばなりません。「共生(ともいき)を目指すグローカル大学」(グローカル=グローバルとローカルを合わせた造語)との本学のスローガンは、そのことを念頭に置いたものです。
■四月開設の大学院実践真宗学研究科は、専門的知識と実践力を備える伝道者の育成を目指すものです。既成仏教教団の伝道力の低下が危惧(きぐ)され、新たな大学院には宗教界から関心が集まっています。
若原学長現代人の悩みや苦しみに寄り添い、応え得る仏教、浄土真宗でなければ見放されてしまいます。教義解釈だけではなく、社会的課題に積極的に向き合う姿勢が求められているのです。「エンゲージドブディズム」ということがいわれていますが、自死問題や環境問題、グリーフケアなどさまざまな課題に教義的裏付けを持ちつつ取り組むことができる伝道者の育成を目指します。
■創立三百七十周年記念事業で、親鸞聖人750回大遠忌を迎える本願寺派と協力し、大遠忌の年の平成二十三年春に開館となる「龍谷ミュージアム」の特色は。
若原学長これは仏教の誕生からアジアへの広がり、そして日本仏教の展開までを多角的、総合的に紹介する他に例のない仏教総合博物館です。世界的視野、世界史的視野で仏教全般を総合的に理解できる施設になると自負しています。
しかも単なる展示施設ではなく、本学や本願寺が所蔵する法宝物や史資料の調査と研究や、現在実施しているアフガニスタンなど世界各地の仏教遺跡の調査、研究の成果を公開、発信します。
■創立三百七十周年の記念事業として、戦時中の学徒出陣の調査も実施されるようですが。
若原学長昭和十八年から同二十年の間に本学からも千数百人の学生が学徒出陣で応召されました。その生存者や遺族の方々への聞き取り調査に着手、約二年間ですべての学徒出陣を経験された人や、同級生、遺族ら約三千人の調査を終え、二〇一二年に調査結果を記録誌として出版します。
戦前から存在している大学は四十九校で、部分的に学徒出陣の調査を行なった大学もあるようですが、今回のような全体的な悉皆調査はおそらく初めてではないでしょうか。埋もれていた事実、歴史を掘り起こし、後世に残すことで、もう二度と学生たちが再びペンを銃剣に持ち替え戦場に赴くような悲劇が繰り返されないようにしたい。
■"ポスト370"の展望、課題についてはどうお考えですか。
若原学長第四次長期計画(二〇〇〇年〜二〇〇九年)の検討課題である新学部の開設構想は、引き続いて検討することになります。その方向性は、十八歳人口の減少など大学を取り巻く環境や時代、社会のニーズを見極めた上で慎重にすすめなければなりません。
さらに龍谷大学全体について言えば、創立以来三百七十年間に蓄積された膨大な知的財産などを有効に活用しブランド力をさらに高め、その知名度、存在感を確固たるものにしてゆきたい。
例えば世界中の人々が仏教を学び、研究するために龍谷大学と接点を持たねばならないと認識するような存在感を確立したいです。