■昨年は米国のオバマ大統領が「核なき世界」の実現を掲げ、世界的な核廃絶への動きがありました。長年核廃絶を訴えてきた半田座主にとっても印象深い年だったのでは。
半田原爆投下から六十四年たったが、まさかオバマ大統領が発言するとは思わなかった。非常に道義的責任を感じて発言されたことに、「よくぞ言ってくれた」と拍手喝采を送りました。これは大変なことです。自分の国が(原爆を)落としたのを「申し訳なかった」と言う。仏教ではこれを懺悔というが、初めて懺悔された。
私もヨーロッパへ行くたびに原水爆反対を訴えてきた。平成十七年にフランス・リヨンで開かれた「世界宗教者平和の祈りの集い」で、原爆投下について語ってほしいと頼まれ、ファイナルセレモニーで峠三吉の詩を披露した。約二千人が坐っていた会場で、「父を返せ、母を返せ、平和を返せ」と言うと、みんながスタンディングオベーションしてくれた。広島や長崎の代弁者として発言した私にとって、あの感動、喜びは今でも忘れられません。
■半田座主の核廃絶への強い思いの原点はどこにあるのでしょうか。
半田私の師父(半田孝海師)は終戦直後、原水爆禁止日本協議会の代表委員として広島の世界大会で議長を務めました。当時、広島で原水爆反対を訴えることは政治的な運動をしているととらえられ、ほかの和尚さんは控えたらしいが、父は自ら乗り込みました。その父が亡くなる時に私の手を強く握って「平和に生きろ」と言った。父の思いはずっと私の中にあります。人間が人間を殺す大きな兵器を作る。こんな悲劇はありません。
■核廃絶に向けた大きな潮流の中で、日本の仏教界は何をすべきか。
半田私は仏教界の代表ではなく、天台宗のトップにすぎないが、仏教界にも共鳴してくれる方は多くいらっしゃる。平和は仏教だけでなく、すべての宗教の根幹です。宗教の目的は心の平和であり、それが世の中の平和につながっていかねばなりません。しかし、民族の争いがあったり、いろいろな憎しみがあって戦争が起こる。相手の気持になるということがなかなかできない世の中になりましたね。
■相手を思いやれないというのは、今の日本社会に当てはまります。人心が荒廃し、さまざまな問題を抱えています。
半田そこには宗教離れがあるのではないでしょうか。倫理や道徳ではだめなんです。それらは宗教に基づいたものなのに、宗教が排除されてしまった。宗教教育の欠如から今日のさまざまな問題は起きていると思います。
日本は経済成長して何でも手に入り、自分の欲望を満たせるようになって欲張りになった。小欲知足という考え方がゼロで、もったいないという心が起きません。マザー・テレサが「もので栄えて、心で滅ぶ」と言ったが、その通りになった。
今の子どもたちはしてもらうことばかりで自立精神が育たない。その上、競争社会で、相手を蹴落としてでも、というエゴイズムの世の中になってしまった。善悪の基準も曖昧で、ただ甘やかされるだけでは、大人になってどうなるか心配です。マザー・テレサは慈悲の反対は無関心と言ったが、今の子どもたちは関心や希望をもって何かしようという意欲がないと思う。自灯明をつけて進むようなことができるのでしょうか。
■若い世代に対して仏教はどう向き合えばよいのでしょうか。
半田伝教大師の忘己利他の精神を生かしてほしい。人材を養成することに骨を折らなければ日本は良くなりません。伝教大師は「得難くして移り易きは人身なり。発し難くして忘れ易きは善心なり」と仰っている。みんなに良い心が起こるような世の中にしなくてはなりません。恨みや憎悪ではなく、相手の喜びを自分の喜びに、相手の悲しみを自分の悲しみとするぐらいにまで持っていかないといけません。
人間と人間の触れ合いで人間が育つのです。親の背中を見て子どもは育つように。おじいちゃんやおばあちゃんが仏壇に手を合わせるのを孫たちが見たら、何をやっているのか教えてあげる。そういうところから始めないといけません。
ところが、今は家族が崩壊してみんなバラバラになって、親子のつながりが希薄です。
■家族のつながりの希薄化は檀家制度の崩壊にも通じています。
半田先ほど、宗教離れと言いましたが、今では山や海に散骨したり、音楽葬でお経は要らないというところまできています。だから、私は若い和尚さんたちに、「法事の席で法話をしろ。三分でもいいから。たとえ一言でも親の恩とか親とのつながりとか、命の大切さとかを下手でもいいから話せ」と言っています。青年僧たちに頑張ってもらいたいと思っています。
なぜ、映画「おくりびと」では死ぬ場面で僧侶も牧師も描かれていないのか。なぜ、「千の風になって」がはやったのかを考えないと。メディアの影響は大きいですよ。そういった流行に動揺せず、「仏教はこういうものなのか」「そんなに尊いものがあるのか」と分かっていただけるよう、僧侶たちは行動してほしいですね。
■最後に、仏教者だけでなくすべての宗教者に訴えたいことは。
半田山田恵諦猊下(第二百五十三世天台座主)が比叡山宗教サミットを始めた時の、各宗教が手を握って平和に生きようという精神を通すべきです。今やっとオバマ政権になって核廃絶を言い始めただけに、この時を逃がさずぜひ、前進させてほしい。
いくら平和を叫んでも、各人の心に平和がなければだめなんです。宗教者はもちろん、あらゆる人たちと手を携えて、平和に向かって前進していきたいですね。