稲葉宮司と馬との縁は幼少時にまでさかのぼる。五歳のころ、陸軍が近くの小学校に駐屯していた際、同県栃木市の実家の土蔵が軍の物資保管庫となっていた。そのため終戦時に軍用馬が払い下げられ、その時から馬に乗り始めたという。
ニュージーランドと同神社は、神馬の献進を通じて三十年余にわたる交流の歴史がある。昭和四十七年、同国産の白馬「バリーナ号」がミュンヘン五輪の馬術代表選手・高宮輝千代氏から奉納され、戦時中に途絶えた神馬の伝統が復活した。これを知った同国首相は五十二年、神馬「丸泰号」を献進し、五十六年に「光波号」、平成十七年には「光徳号」を献進した。昭和六十一・六十二年には同国に流鏑馬が招待され、史上初の流鏑馬海外公演を実現した。
こうした実績は、イギリスでの流鏑馬公演や、英国王立甲冑博物館との姉妹施設締結へと展開。同博物館との交流は、宝物類の相互展示や流鏑馬、中世武術の公演を経て、海外初となる大規模展覧会「将軍徳川家康公の生涯展」の共催にまで発展した。
日本中央競馬会との交流も盛んになり、十一月には同会主催の国際パーティーで流鏑馬を披露。現在、ドイツやブラジルからも公演の打診が来ているという。
こうした展開について稲葉宮司は「国際交流は継続することに意義がある。当社は全方位外交。ニュージーランドとの交流継続はもちろん、どの国とも関係を深くする。機会があれば流鏑馬などの形で海外訪問も行なっていく」と話す。
東照宮が国際交流を行なう意義について、「東照宮の参拝者の一割強は外国人。ご祭神徳川家康公の平和政策は、海外でも高い評価を受けている。また、自然との共生が叫ばれる中、神道は海外での評価が高まりつつある。国際交流はご神徳の高揚にも大事なことで、ご祭神の理念や考え方を正しく踏まえて活動していきたい」と説明する。
近年もニュージーランドとの交流は盛んだ。ここ二年ほどは、同国首相、先住民マオリ族のナティ・トゥファレトワ大首長ら、政府要人の来社が続いている。十月に東京タワーで開催された同国政府観光局主催の「NZジャイアント・ラグビーボールパビリオン内覧会」では、清祓式を斎行した。
同国との交流の中で、マオリ文化への理解も深まってきたという。稲葉宮司は「マオリ文化は自然や先祖を敬うという点で神道に似ている」と親近感を語る。「昔から『言挙げせず』が神道の美徳だが、国際交流については黙っていてはだめ。ある程度は『言挙げ』をしないと」と笑顔を見せた。
(江端希之)