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  時感断想 − 第37回

 1、    研究から介護へ        第一次関心、一瞬で転換


森岡清美

1、研究から介護へ
第一次関心、一瞬で転換

2、厳格な研究生活
心の底に解放への欲求

3、介護する共同体
患者励ます近親と親友

4、リハビリの重要性
回復でなく新たな発達





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   本年四月早々妻が脳梗塞の一種脳塞栓で倒れ、以来付き添って五ヵ月になる。付き添いながら考えたことのいくつかを、私事とからまることばかりでお見苦しい限りであるが、思いきって書かせていただくことにした。老書生のたわ言としてお読み捨ていただきたい。
   どの人も何らかの生活目標をもって行動しているが、生活目標は一つではなく、いくつかの生活目標には優先順位がある。生活の主な局面でほぼいつでも優先第一位を占める目標を第一次関心と呼ぶなら、私の第一次関心は敗戦直後の学生時代以来一貫して学術研究であった。研究のテーマは年とともに展開し推移したが、研究が第一次関心の座を他の生活目標に譲ったことはない。
   学生時代の恩師伊藤栄四郎先生が、母校の将来を担う逸材として期待されたのにかかわらず、敗戦直後教職追放の悲運に遭い、三十代後半で第一次関心を研究教育から家族の経済的安定へ転換せざるを得なかったことと比べるまでもなく、六十年もの間一貫して研究を第一次関心とし続けることができたのは幸運といわねばならないだろう。
   ところが、食堂の椅子の間に倒れている妻を抱え起こしたとき、私の研究生活はたった今終わった、これからは妻の介護一本でいかねばならぬ、と瞬時に観念し、研究から介護へと第一次関心がアッサリと転換したのである。ちょうど明治初期の史料を読んでいた時で、夕食の知らせが遅いので書斎から出てきて異変を目撃した。その史料は私の机上に広げられたまま、今に至るも作業に何の進展もなく、研究活動はその状態で凍結されたままである。
   六十年間持続してきた限りなく重いはずの第一次関心が、一瞬にして崩れ去ったのは奇とすべきかもしれないが、そのお蔭で、以来研究と介護の間の葛藤を経験することはなく、スッキリした気分で介護に当たることができたのは、不幸中の幸いであった。


(H19.09.04〜H19.10.04)

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このページの最終更新日 2007年10月04日