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原油高騰をあおる投機マネーの暴走

2008年7月29日付 中外日報(社説)

勧善懲悪の時代劇に定番の敵役が米や木材などを買い占め、庶民を困らせる悪徳商人なら、現代版のそれはさしずめ昨今の原油や食糧騰貴の仕掛け人だろう。ただ、今は金融自由化で貪欲に利ざやをあさる巨額マネーが瞬時に世界を駆けめぐる。被害も地球規模だ。しかも投機マネーの暴走を誰も止められない。末法の世を連想させられる。

価格は通常、需給バランスで決まるが、原油は例外のようだ。今年に入り一バレル百ドル台に乗ると、一時は一気に百五十ドル近くまで急騰した(米国産原油)。昨年同期の二倍である。この間に、世界の原油需要がそれほど増えたわけではない。先日発表された経済産業省の通商白書によると、価格の四〇%分は「需給バランスでは説明できない」という。投機マネーの流入が大きな要因だ。

原油の高騰は日常生活のすべてに響く。漁船二十万隻が十五日「出漁しても赤字」と一斉休漁したが、ガソリンなどの価格上昇は輸送コストにも直結し、穀物、野菜など農産品へも波及する。

原油価格は天然ガスと連動するから電気・ガスはもちろん身の回りの思わぬところにまで物価高の津波が押し寄せかねない。

食糧も高騰し、途上国では暴動が起きている。車の燃料にトウモロコシが使われるからだが、ここでも投機マネーの介入がある。

投機で人々を苦しめる行為は人の道に反する。生命を支える食糧価格のつり上げはもとより許せないが、原油高騰も世界的な不況の引き金になって株式市場が暴落、年金基金の多くが支払い不能になる二次被害が懸念されている。日本の主要三百社の企業年金が計五兆九千億円の損失を出したという報道もあった。運用基金のほぼ五割を株式に充てているため、米国発の株式市場の混乱が響いたそうだ。原油高騰による世界不況の被害は、その比ではないという。人々の将来の生活設計を破壊する恐れさえあるのである。

しかし、原油価格の高止まりは当分続くとの見方が支配的だ。中国やインドなど新興国の経済発展でいずれ供給不足に陥るという漠然とした不安に乗じ、各種ファンドが食糧とともに金融商品として売り出し、世界中の機関・個人投資家らが大量の資金を投入する。後先を顧みず利ざやに群がるその姿に、人の業の深さを見る思いだ。

一方で、地球上の原油可採埋蔵量の八〇%は国営石油会社に支配されているという報告がある。このため原油高騰で刺激された資源ナショナリズムが働き、政治的な思惑で生産がコントロールされやすいとも聞く。価格が高止まりするメカニズムには国益と人間のむき出しの欲が絡み合い、そこに倫理感や宗教的な慎みが入り込む余地はなさそうだ。

『地球最後のオイルショック』(新潮選書)という本が最近出版された。通説によると、世界の原油埋蔵量は今世紀半ばまでは需要を賄える。だがこの本によると、あと十年前後で供給が需要に追いつかない事態が起こり得るという。原油大生産地域の中東諸国の公表する可採埋蔵量が過大らしいこと、また油田は採取が進むに伴い生産量が下降するし、新たな油田の発見も減っているなどさまざまな理由からだ。

これをピーク・オイル論というそうだが、石油資源の枯渇を危惧する主張は以前からあった。ただ、英国のジャーナリストで調査報道に定評があるというこの本の著者は取材が緻密で、危機をあおりたてる際物ではない。

ピーク・オイルまでに代替エネルギーは間に合いそうにない。石炭の利用は地球環境を悪化させる。世界が突然の大破局を免れるには、今すぐ石油漬け社会を根本的に見直すしかないというのが著者の力説する結論だ。

要は、皆が生活の隅々で省エネを徹底することだろう。それには、宗教的な感謝の心が支えになる。当たり前のようだが、節約の精神が投機マネーを駆逐する"葵の御紋"になるのなら、喜ばしい限りだ。