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卵の側に立って小説を書きたい

2009年3月10日付 中外日報(社説)

「〈高くて頑丈な壁と、壁にぶつかれば壊れてしまう卵があるなら、私はいつでも卵の側に立とう〉。ええ、どんなに壁が正しく、どんなに卵が間違っていても、私は卵の側に立ちます」=原文英語、毎日新聞・佐藤由紀訳。

『ノルウェイの森』『海辺のカフカ』などの作品で知られる作家の村上春樹氏が「社会における個人の自由」のために貢献した外国人作家として、イスラエルの文学賞「エルサレム賞」を受賞した。二月十五日、エルサレムの国際会議場で行なわれた受賞記念講演で村上氏は、このような表現により、イスラエル軍のガザ攻撃を批判した。

スピーチの中で語られる壁とはイスラエル軍、卵とはガザの住民だ。ガザに対する攻撃が"反撃"であったとしても、あまりにも多くの一般住民を巻き込んだ過剰な武力行使であったと言う村上氏。賞を与えてくれたイスラエルを批判したことになる。思い切った内容の直言であったが、村上氏の講演は満場の拍手のうちに終わったと、日本の各紙は報じている。

「私たちはそれぞれが多かれ少なかれ卵なのです。世界でたった一つしかない掛け替えのない魂が、壊れやすい殻に入っている――それが私たちなのです。そして、私たちそれぞれが、程度の差はありますが、高くて頑丈な壁に直面しています」=同、一部中略=と村上氏は続けた。

昨年、九十歳で死去した村上氏の父は僧籍を持ち、毎朝仏壇に向かって祈りを捧げていた。父には従軍経験があり、数多くの戦場の死を見てきた。味方といわず敵といわず、すべての死者の冥福を祈るのだと聞かされた。――村上氏の講演が好意的に受け止められたのは、このような怨親平等の宗教観を交えて話したからではないか。

さて、これと並行して日本では今、元外交官の天木直人氏のブログが注目されている。天木氏は平成十五年、レバノン駐在大使だった時「イラク戦争に反対」と外務省に公電を打ち、退官に追い込まれたとされる人物だ。外務省は「天木氏の退官は人事異動の一環」としているようだが……。

天木氏によると、旧知のマハティール・マレーシア元首相から、オバマ米大統領あての公用書簡がメール送信されて来た。メールの真否はまだ確かめられていないが、在職中、欧米諸国向けに"正論"を唱え続けた元首相らしい。その内容を、天木氏は次のように紹介する=要旨。

(1)人々を殺すのをやめなさい。米国は目的を達成するために人々を殺すのが、あまりにも好きです。(2)イスラエルの武力行使を無条件で支持するのをやめなさい。イスラエルの武器・弾薬は、米国から供給されたものです。(3)イラクでは五十万人の子どもたちが命を失いました。それとひきかえに、米国が手にしたものは何だったでしょう。(4)科学者や技術者に、残虐な新兵器の開発をやめさせなさい。(5)軍事産業にこれ以上の武器を作り、売ることをやめさせなさい。(6)世界の国を民主化しようとするのを、やめなさい。すべての国で民主主義がうまく機能するとは限りません。(7)金融機関という賭博を廃止しなさい。ヘッジファンドやデリバティブや為替取引をやめなさい。(8)京都議定書や、環境問題についての国際合意に署名しなさい。(9)国際連合に敬意を払いなさい。――このうちの一つでも二つでも実現することができたなら、あなたは偉大な大統領として記憶されることでしょう。

天木氏が紹介するこのメールは、村上氏のエルサレム講演の趣旨に通じるものがある。選挙戦で核軍縮に言及したオバマ大統領に、先日の読売歌壇(岡野弘彦選)の次の一首を読んでほしいと願う。

・原爆を正義とおごる国がらをオバマ氏あなたも引き継ぎますか   千葉市 岩川 栄子