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「市民文化賞」に十七歳の死生観

2009年12月15日付 中外日報(社説)

「十七歳とは思えない、しっかりした物語構成と、文章力だ」。選考委員から感嘆の声が上がった。京都府宇治市公募の「紫式部市民文化賞」に、第十九回の今年は五十九編の応募があった。立派に製本された作品も多かった中で、手書きの原稿がひときわ光を放っていた。京都府立東宇治高等学校三年生、木澤瑞季さんの小説『列車の音色』。十七歳の受賞は、同賞の最年少記録である。

『列車の音色』のあらすじは……。生まれて間もなく列車事故で命を失った幼女「レイ」の魂は、次の生命へ生まれ変わるきっかけもなく、さまよっていた。電車に揺られて、霊界の駅で下車するが、どこへ行くというあてもない。そこへ同じように電車の事故で植物状態にある「さくら」という少女の魂が現われる。「さくら」の導きによって「レイ」は再び"生後の世界"へ生まれ変わるチャンスを得る。次の世界行きの電車を待つ「レイ」。その周囲に、母親が好きだった歌のメロディーがよみがえり、「レイ」を包む。

四百字詰め原稿用紙で約百枚、死生観をしっかりと踏まえた、ファンタスティックなストーリーが、すがすがしい文体でつづられている。

選考委員長の山路興造・京都女子大学講師は「人間の存在の意味とか、生きるということを真摯に考える若者もいるのだと、驚くとともに感激させられた=要旨=」と述べている。

「村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の影響を受けたのではないかと思った」と語るのは、選考委員の一人、中川成美・立命館大学文学部教授である。そんな声が出るほど達者な書きぶりだ。しかし木澤さんは、村上作品を一度も読んだことはないと言う。

「書くことが好きで、小学校一年生の時から、さまざまな形で文章を書いてきました。父母や姉、弟など家族に読んでもらいます。姉の友人で、書く仕事をしている方から、アドバイスを受けることも……。ほかには、特別な指導は受けていません」

学校の親友と死生観について語り合うことがある。ファンタジーを読むのが好きだ。そうした日常生活の中から『列車の音色』がごく自然に生まれた。

「受賞のことば」に木澤さんは、要旨次のように記す。「普段から自分の中に渦巻いていた死生観を、改めて形にすることができました。私の周りには常に死が存在しています。虫を殺した、鳥が死んでいた、事故で誰かが亡くなった。私ではなくて、なぜ他の人が死んだのだろう。人は死んだらどうなるのだろう。人は泣きながら生まれてくると言ったのは、誰だったろう。身近でありふれた疑問から生まれた話が、読み物として形を成し、このような賞を頂けることになりました」。大学へ進んだら、文学だけでなく、より幅の広い勉強をしたい。

若者はパソコンで文章をつづるし、ケータイ小説を書く人も多い。しかし「私の場合、それでは自分の中にあるものを出した気がしない」。あくまでも手書き派である。

木澤さんの将来について中川教授は「技術的には達者だが、書くテーマによっては、技術が妨げになることもあると知ってほしい。とにかく書き続けること。背伸びせず、広く学び、広く読む心掛けも必要だ」と注文を付ける。

さらに「木澤さんに限らず、生と死の問題を真面目に考える若者が増えた。文学は終わったという声を聞くこともあるが、書き手は多いし、読書量が増加に転じたとの報告もある。熟成した書き手の出現を期待したいですね」とも。

宇治市文化自治振興課では木澤さんの作品を印刷、小冊子にまとめている。若い層の死生観の一端を知る資料になるかもしれない。宇治市役所は電話〇七七四(二二)三一四一。