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断ち切りがたい"長い根"の弊害

2010年7月22日付 中外日報(社説)

日本相撲協会理事長代行の村山弘義氏はNHKを訪問し、福地茂雄会長に「名古屋場所は従来通り、テレビとラジオで実況中継していただきたい」とお願いしたらしい。しかし福地会長は役員と協議の上、電話で「時期尚早」として断わった。野球賭博問題について改革の道筋がまだはっきり見えていない、が理由のようだった。

これまでの日本相撲協会には、ややもすると中継させてやる、取材させてやる意識があったのではないだろうか。例えば三年前、相撲中継放送に長年携わってきた杉山邦博・元NHKアナウンサーから「相撲取材証」を一時取り上げたことがあった。

ワイドショーに出演した杉山氏が、当時の横綱・朝青龍の言動を批判する意見にうなずいた、というのが取材証取り上げの理由と伝えられた。取材させてやる意識が先行したからこその「取り上げ」だったのではないか。

朝日新聞によると、NHK生え抜きの役員の一人は「NHKが場所ごとに中継するのは当たり前、という意識があり、中継を見送るなど、考えたこともなかった」と告白したそうだ。アサヒビール相談役から迎えられた"外部出身会長"だから「中継を見送って世論に応える」発想が生まれたのだろう。一方、相撲協会側も、外部出身の村山理事長代行でなかったら、頭を下げて「中継お願い」に出向くことはなかったのではあるまいか。

この報道と前後して発売された『週刊朝日』に、元横綱審議委員会委員の内舘牧子さんが「世間はすぐ忘れる」と題して寄稿していた。与野党逆転してまだ一年にもならないのに、与党時代に将来の総理候補とうわさされていた女性議員たちが今どうしているかについて、内舘さんの周辺ではほとんど知らない人が多いとか。だから朝青龍の存在も、やがては忘却されるだろう、と……。

同じ週発売の『サンデー毎日』では、毎日新聞社の牧太郎・専門編集委員が、今回の野球賭博を「大相撲史上最悪の出来事」とするのは誤りだ、と決め付けている。もっと悪質な事件があったというのだ。

牧氏によると、東京五輪開催の昭和三十九年、廃業した元大関が、アメリカ巡業中に「買ったり、もらったりした」拳銃三丁を日本に持ち帰り、暴力団会長らに譲っていたことを自供した。それを端緒に捜査が進み、親方一人と現役三力士の拳銃持ち込みが明るみに出た。三力士のうち二人は横綱、残る一人も数年後には横綱に昇進したから、角界にとって、ゆゆしい事態だった。親方や三力士は、拳銃は隅田川に捨てたと供述したが、真相はどうだったのか。

しかも親方や三力士は書類送検されただけで、協会からは今回のような解雇処分など、受けてはいない。反社会性という点では、拳銃持ち込み事件の方が罪が重いと牧記者は記す。しかし内舘さんがいうように、世間は忘れっぽくて、誰も覚えていない。

「実況中継見送り」が報じられた日の産経新聞朝刊コラムが、昭和三十六年の国会答弁に触れていた。郵便物の遅配について、参議院逓信委員会で当時の郵政省官房長が「考えてみますと、遅配の根というものは非常に長いものでございまして……」と陳謝したという。半世紀後の今、民営化した「ゆうパック」が大幅な配達遅れ。社長の「不慣れな職員がおり、手違いも重なった」の言葉に、コラムの筆者は「当事者意識ゼロ」と厳しい。

日本の郵便事業と同じように、日本相撲協会にも、断ち切りがたい"長い根"があるように見える。角界の一部には、外部からの改革要求を極力やり過ごしたいとの気配も感じられる。挫折はしたものの、力士側から改革要求が出された昭和七年の「春秋園事件」に学ぶものはないだろうか。