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パキスタン水害めど立たぬ復興

2010年10月14日付 中外日報(社説)

かつてガンダーラと呼ばれた大乗仏教ゆかりのペシャワール近郊からインダス川下流域にかけ、パキスタン国土の五分の一が被災した大洪水は、発生から三ヵ月近く経てなお復興のめどが立っていない。現地で救援活動している地元NGO「チャーチ・ワールド・サービス(CWS)」の日本人スタッフ、小美野剛さんの話である。先日一時帰国し、大阪で実情を訴えた。

「国連史上最悪の災害」(潘基文国連事務総長)だが、日本では話題になることすら珍しい。その温度差に彼はひどく気落ちしたようだ。

小美野さんのことは約二年前、本欄でA君という仮名で紹介した。当時、武装勢力に殺害されたほぼ同世代の日本人青年と同じアフガニスタンで活動していた。今は平成二十年のサイクロンで大被害を受けたミャンマーの復興支援と今回の洪水に没頭している。CWSは米国に本部があり、世界各地の支部が独立して活動する国際NGO。パキスタンには約二百人のスタッフがいるという。

インダス川流域の大洪水は七月下旬からの豪雨で発生し約二千人が死亡、被災者は人口の一割を超える二千万人に上ると推定されている。パキスタンでは五年前、北部で大地震があり十万人近い死者と家屋約六十万戸が被害を受けた。それに比べ死者数こそ少ないが、この洪水の特徴は被害面積の広大さと被災者数の膨大さにある。

政府の危機管理態勢が機能せず詳細は不明だが、家屋の被害が百九十万戸に及び、七百万人もの人々が今後長期にわたり家屋喪失状態になりそうという。被災者の多くは貧しい農民で、南部では今も冠水した農地が少なくない。来年の収穫も期待できないそうだ。人々の栄養不良、食糧不足はすでに慢性化、医療も不充分で伝染病のまん延が懸念され、北部は間もなく積雪シーズンだという。

CWS活動範囲の一つ、南部シンド州の避難民キャンプだけで今後数年間に五万人以上の出産が想定されている。「その困難さが想像できますか。人道支援は、まだ始まったとも言えない状態なんです」と訴える小美野さんは、日本での反応の乏しさにもどかしげだった。彼の言うとおり、この災害に関する日本での報道は少ない。

「今回は米国の援助が突出しているが、それは混乱に乗じて浸透するイスラム過激派に対抗するため」

「中国が積極的に関与しているのは近隣への影響力拡大という戦略的な狙い」

そうした視点の報道は関心を呼ぶ。日本は陸上自衛隊のヘリコプターを主力とする国際緊急援助隊を派遣したというニュースもあった。しかし、陸自ヘリ部隊には五日、所期の目的を達成したとして帰国命令が出された。一方、被災者の生活に分け入ってその窮状を伝え、また、なぜこんな大災害になったのかを掘り下げた報道は今のところ限られている。

阪神・淡路大震災の体験で、筆者は大規模災害で個々の被災者の悲劇は伝え切れるものではないことを思い知らされた。だからパキスタンでの二千万人もの被災者の悲しみは想像もつかない。だが、それを伝える努力がないと、痛みを共有することはできない。

CWSは、避難民キャンプに医療チームを送り、食糧や生活必需品を届ける活動を進めているそうだ。今後、被災者の生活立て直しや学校の再建など復興支援を迫られているが、厚い壁が資金難だ。CWSの活動に資金援助している大阪のNGOにも、この災害に関する寄付はまだわずかにとどまっているという。

国際レベルの援助も乏しく、独立行政法人国際協力機構によると国連は向こう一年間に約千七百億円の援助が必要としているが、まだ二割程度しか確保できていないようだ。

近年の気象異変で、すでに世界各地で異常な風水害が頻発している。豪雨や地震による災害は中米ハイチや比国マニラ、インドネシアなどからも届いている。パキスタン洪水も、よその世界の話で済むことではないように思う。