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隔離集団の心理 チリ鉱山事故から

2010年10月16日付 中外日報(社説)

南米チリの鉱山に世界の注目が集まった。落盤事故で作業員三十三人が地下七百メートルに閉じ込められた八月初旬以降、二ヵ月がかりの救出作戦が展開され、ともかく全員が救出されたのは幸いだった。

ここまでの長い間、地上から食糧や生活物資を供給するなど支援活動が続いたが、とりわけ、隔離状態になった人たちの心理的なサポート、ストレスや人間関係など精神面のケアが重視されていた。

現地には米航空宇宙局専門家チームも派遣された。宇宙船に暮らす飛行士への支援、例えば昼夜を人工的に区切って生活リズムを整えるなどのノウハウを助言する目的だが、彼の国のこと、もちろん隔離集団についての新たなデータ、知見を収集する目的もあっただろうことは想像に難くない。

同様の集団隔離生活の実験が、五月からロシアで行なわれている。何百日もかかる将来の有人火星飛行を想定し、ロシア科学アカデミー生物医学問題研究所が、各国から選抜した男性六人のチームを、モスクワに設置した模擬宇宙船に五百二十日も閉じ込める計画である。

外部との通信遮断など、かなり過酷な条件下での実験で、宇宙飛行士に必要な強靭な精神力とチームワークが育まれるかどうかがカギのようだ。

実は、このような実験には大規模な「前例」がある。一九九〇年代にアメリカ・アリゾナ州の砂漠に建設された「バイオスフィア2」。人類が宇宙基地に移住するとの前提で、閉鎖空間の生態系で人間と自然環境がどんな状況に推移するかを研究するのが目的だった。

「第二の地球生態系」の名にふさわしく、一・二ヘクタールもの完全密閉のガラス張り建物内に、世界各地から持ち込んだ四千余種類の動植物で海洋、熱帯、サバンナなどの環境を再現。男女計八人の研究者が二年交代で生活し、百年間続けるという壮大な計画であった。

ところが最初の、一九九三年九月までの二年間で実験は途切れてしまい、日本円で百数十億を投じた「ミニ地球」はその後、売りに出され、見学施設になった。

その「失敗」の原因についてはさまざまな分析がなされているが、人工生態系での酸素不足や食糧生産の困難さなどに加え、内部の人間関係が極めて深刻だったとされる。

その心理、精神面の問題について、「権力争い、派閥抗争のために、すべてが台無しになりそうな危機」があり、実験開始当初には互いに協力して素晴らしい仕事をする友情と高揚感に満ちていたのが、出て来た時には口も利かないほど険悪な仲になっていた、との報告があるという。

どこかで聞いたことのあるような、何か心当たりのある話だ。どんな世界、集団でもそうだが、人間の「我」や「業」というものは、地球規模の環境をも超えてしまうほどのものらしい。

翻ってチリ鉱山の地中深くでは、劣悪な環境にもかかわらず、作業員たちが驚くほどの団結力、協調性でサバイバルを続けた。

地上からのサポートもあるが、強力なリーダーシップを持った人物がおり、普段から互いに仕事仲間を思いやる寛容さと信頼関係が皆にあったからこそ、作業を分担するなど生活規律を守り、パニックにもならずに励まし合い、希望を持って生きてこれたと報じられている。

報道では、彼らの心の支えとして、サッカーW杯のDVDや手紙などと共に、ローマ教皇から一人ずつにロザリオが差し入れられた。聖書も贈られ、毎日二回の祈りが日課だったという。

伝統的なカトリックの国柄とはいえ、それがこのような命の危機の際にも精神的支柱となり得たのは、キリスト教が人々の日常や生活に根差す社会的、文化的背景があるからだろう。

「ガラパゴス現象」という言葉がある。南米の大陸から離れ固有種が独特の進化を遂げた世界遺産の孤島名から転じ、周囲から孤絶した環境で、あまり良くない意味で独自の世界を築く状態を揶揄した表現である。

その宗教版として、「ガラパゴス教団」との言い方もされる。どんな宗教でも、世間から隔絶状態で内部の論理を優先し、社会状況と無縁に勢力争いや独りよがりを続けていてはならない――これは、言わずもがなのことかもしれないが……。