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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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科学技術と人間の生 いのちへの想像力を

2011年11月19日付 中外日報(社説)

「ピョコッ、ピキュッ」という不思議な足音を覚えておられるだろうか。日本初のテレビアニメーション「鉄腕アトム」の主人公が歩く時の音だ。

半世紀も前、従来の「効果音」を音響デザインにまで高め、前衛的電子音楽で「音の神様」といわれた大野松雄の業績を追ったドキュメンタリー映画「アトムの足音が聞こえる」が話題を呼ぶ。

その中で、オープンリールテープを手で逆回しにするという工夫であの「ピョコッ」を作った大野は「アトムは人の心を持ったロボットだから、それにふさわしく、鉄じゃない音にした」と人間臭さへの思いを語っている。

だが例えば「ヒューン」という電子音だけで、現実には無音である宇宙空間を連想するように、私たちは「科学の子」アトムで、それに象徴される技術文明の輝かしい精華を夢見た。その「思い込み」は時代の空気そのものであっただろうが、アトムは「原子」、その兄の名は「コバルト」、妹は「ウラン」であった。

一方、同じ日本SF映画の古典「ゴジラ」。ビキニ環礁での核実験による被ばく事件の昭和29年に公開された、この強烈で深い主張を持った反核映画の主題曲を作った伊福部昭は、自然への畏敬やその中で暮らす人間への思いが強い作曲家だったという。

弦楽器を中心としたユニゾンで始まる、かのあまりにも有名な曲には、暴走する核技術、文明への批判が込められているのだ。

神道に興味を持ち、宗教映画の音楽作品も多い伊福部。実は、その交響曲作品をヒントに彼の甥に当たる工学者が作ったのが、東日本大震災でも繰り返しテレビから流れた「緊急地震速報」、あの「ティリン、ティリン」という胸騒ぎのするチャイム音だということがネットで広まった。

地震と津波と原発事故により、私たちの幻想は打ち砕かれた。「こころ優しい」アトムの物語には、「プルトニウム」の語源でもある冥界の神「プルートウ」も登場するが、その手塚治虫の名作「ブッダ」が震災後の今、多くの人々の心を捉えてもいる。

ドキュメンタリーでは、「栄光」の座を自ら去った大野が滋賀の障害者福祉施設に関わり、数十年も手作りの学芸会や運動会の演出をし続けている姿が出てくる。

「みんなと一緒にやるのが本当に面白くて」。入所者たちの天真爛漫な歌声に曲をつける、その穏やかな笑顔には、いのちを輝かせて生きる人間への限りない愛情があふれていた。