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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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芸術による鎮魂の力 いのちの鼓動届ける

2012年3月8日付 中外日報(社説)

再び「あの日」が巡り来る。各地で多彩な鎮魂、激励の催しが開かれる。パリのユネスコ本部では11日、地元音楽家有志によるオーケストラを佐渡裕さんが指揮し、世界の芸術家たちからの支援に感謝するコンサートを開く。曲目はラヴェルの舞曲「ボレロ」だ。

阪神・淡路大震災の地神戸では先日、現代舞踊家藤田佳代さんの研究所メンバーによる公演があり、「届ける」と題した東日本大震災犠牲者への鎮魂のダンスが25人の群舞で披露された。

青い背景の前で子供たちも交えた踊り手たちは、黒の衣装で手にした下駄を打ち鳴らし、素足で床を踏む。音楽はなく、客席に配した男性ダンサーたちが手拍子と足踏みで呼応する。天を仰ぎ、地に伏し、躍動する。まるで慰霊と支え合いの心がつながり、広がっていくよう。一斉に両腕を頭上に伸ばした姿は、苦難の中からもさまざまな命たちが芽吹く様子に見えた。観衆は万雷の拍手を送った。

阪神で被害を受けた藤田さんは長く「いのち」をテーマにダンスを創作してきた。その気持で昨年夏には、被災した宮城・気仙沼の福祉施設に、研究生70人が「祈り」をテーマに踊った励ましのビデオレターと義援金を贈った。

「昨年までは震災を乗り越える努力をしてきました。でも3・11以降は人間の無力さを思い知らされています」という藤田さんは「届ける」で「震災と原発事故の犠牲になった人間、動物や虫たちも含めた数限りない命たちに思いを重ねました」という。

ボレロも、セビリアの小さな酒場で一人の踊り子の舞に、初めは知らぬ顔だった客たちが次々と目を向け、ついには皆が一緒に踊り出すという物語。一見単調ながら印象的なメロディーが小太鼓だけから木管、金管、そしてラストは弦楽器も入った全奏へと盛り上がる音楽にファンも多いだろう。

ルルーシュ監督の映画「愛と哀しみのボレロ」(1981年)も同曲をモチーフに第2次大戦前後を舞台として、戦争に翻弄された仏、米、露、独の芸術家たちの人生の交錯を描いた秀作だった。いずれも、最初は小さな小さな声が次第に共感を呼び、人々の大きな輪になるというストーリーだ。

ボレロの拍子は、例えば「●阿毘羅吽欠蘇婆訶」の真言や題目、念仏にも似て宗教的な響きがある、と以前に宗教音楽家と語り合ったことがある。神戸でも会場に立ち上った、まるで心臓の鼓動のような力強いリズムは、苦難の中で懸命に生きようとする、かの地の人々にきっと届くことだろう。

●=口+奄