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公共施設の建て方は高齢者らに配慮して

2012年3月24日付 中外日報(社説)

先日の読売新聞短歌欄・小池光選に「紀三井寺の階段残り二十段地球の酸素吸いつくしのぼる=増田福三」があった。約千年前に始まったとされる西国三十三所の第2番・紀三井寺(和歌山市)には231段を上らないと参拝できない。「おおげさなもの言いに実感がこもる」との選評が添えられていた。

現代の日本の公共建物にも、紀三井寺的な難所があるようだ。京都市左京区の蘆田ひろみ医師が指摘するのは、西日本のある文化会館だ。数十段の幅広い石段を重ねた上に、純白の建物が輝く。ローマ・スペイン広場を連想する美しい設計だ。

だが高齢者や障害者は、この会館に近づいて下から見上げると身がすくむだろう。エレベーターは2基あるが小型で、多数の入場者には対応できまい。

蘆田医師の指摘はさらに続く。ある政令都市の中心部にある文化ホールは、広い前庭の奥に本館が立つ。緑の庭を抜けて本館に入る仕組みだが、自然を演出するためか、長い通路の石畳にはでこぼこが多い。足を取られて転倒する入場者が出ないだろうか。「外国のホールは前庭と本館を区切るように車道を通しているので、下車すればすぐに入場できます」

ある区役所は改築を機に、裏通りへ移転した。用地事情のためかもしれないが、バス停から遠い。しかも新庁舎前の駐車場は職員専用で、市民の車は止められない。「お年寄りには、印鑑証明一つ取るのも大仕事です」

蘆田医師は言葉を続ける。「寺院や大聖堂には、信仰の象徴としての輪奐の美が必要だと思いますが、役所は質素な建物でよいはずです。住民が利用しやすい場所と構造を選ぶべきです」

蘆田医師は二十余年前、京都市のカトリック系施設「聖ヨゼフ整肢園」で肢体の不自由な子どもたちの診療をしていた。園生の一部が京都市バスの営業所に陳情するのに付き添った。「車椅子で乗れるようにしてください」と。

「無理かなと思いましたが、バス業界は急速に対応し、民営バスを含めて低床車が増えました。車椅子用スペースを備えた車もあります。今は重度の障害者に温かい社会になりました。だが軽度の障害者や高齢者への配慮がまだ十分ではありません。微力ですがそのことを訴え続けたい」

蘆田医師の指摘を受けて、改築予定の公共建物の設計図を手直しする動きも出てきた。こうした提唱に声を合わせる人の増えることを期待しよう。