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猫好き仲間の縁から英訳された追悼文集

2012年4月12日付 中外日報(社説)

もし飼い猫の「クー」が姿を消さなかったら、この本の英訳が実現していたかどうか。「この本」とは、平成21年6月20日の本欄で紹介した広島の追悼文集『平和への祈り』である。

夏のある日だった。長野県長和町の"学者村"にある別荘に、英語専門学校教師の大賀リヱさんが着くと、留守番役の「クー」が姿を消していた。近所を捜して、尾崎順子さん方に保護されていることが分かった。

尾崎さんはこのエピソードを、横浜市に住む猫好き仲間の大西直恵さんに知らせた。大西さんはその返事に、感銘を受けた1冊の本のことを書き添えた。近くに住む田辺幸子さんから見せてもらった『平和への祈り』である。

その本は、広島の原爆で亡くなった広島県立広島第一高女(現・広島皆実高校)の1年生を偲ぶため、生き残った元級友や家族が持ち寄った手記を、同学年の宍戸和子さん(広島市中区)ら有志が編集、平成19年に出版したものだ。原爆の悲惨さと、核廃絶への願いが端的につづられている。宍戸さんの5年先輩の田辺さんは、出版直後に入手していた。

大賀さんは、大西さんと尾崎さんを通じて、その本の存在を知った。編者の宍戸さんが、手記に込められた平和への願いを広く世界に伝えるには、英訳出版が必要だと考えていることも。大賀さんは宍戸さんに「無報酬で英訳をしたい」と伝えた。「クー」が結んだ人脈で、話が進んだ。

さらに大賀さんを支える仲間が現れた。NHK国際ニュースエディターのW・J・ベンフィールド氏=英国=をはじめ、語学教育などで来日中の米、英、カナダ人の5氏が、大賀さんと共に"広島のこころ"を伝える滑らかな訳文を練り上げた。息の合った分担作業だった。外国人5氏もまた無償の奉仕である。

こうして今年の2月、手記20編を収めた『プレヤーズ・フォー・ピース』千部が刷り上がった。巻頭には潘基文国連事務総長が一昨年の広島平和記念式典に寄せたメッセージが収載された。

学校単位の追悼文集の英訳出版は異例のことだ。この英訳版は3月下旬、広島市と広島県江田島市で開催された「ユネスコ青少年平和大使研修会」に参加した各国青少年101人に学習資料として配布された。また、今年の原爆忌の平和祈念式典に列席する各国代表に手渡す計画もある。

超宗教、超宗派の"平和への祈り"を込めた本書が、さらに広く活用されることを期待し