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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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広島で始まっている「語り継ぎ役」の養成

2013年3月2日付 中外日報(社説)

「戦争を体験した人生の先輩の皆さま。怖かった、苦労した思いを次の世代に語ってください。貴重な体験をもとに、災害に遭った人々や、世界各地の難民に心を寄せてください。皆さまの体験に、国の責任・国民の責任・同時代人の責任感を加えて、次の世代に語り伝えてください。お元気な八十代、九十代の皆さま……」

1月に発行された京都市上京区の浄土宗成願寺の寺報『足跡』に同市北区在住の檀徒・井上千恵子さんが寄せた手記の一節である。井上さんがこの手記をつづったのは、近所で一人暮らしをする高齢の女性「みいさん」から影響を受けたためという。

「みいさん」は東日本大震災に関する報道を、冷静な視点で受け止める。被災者の嘆きや怒りに共感するのは、戦中・戦後を生きた人生体験があるからだ。

安全といわれた地域の干し草を食べさせた肉牛が、放射性セシウムに汚染していると判定された。自分にどんな落ち度があったのかと肩を落とす福島の飼い主の映像に「落ち度なんて……」と声を上げる「みいさん」。

大文字の送り火。岩手から送られた松は、京都五山で焚き上げられなかった。祈りを込めて松を集めた人の悲しみが、アナウンサーの表情を借りて伝えられる。どこへ怒りをぶつけたらよいのか。京都にも涙を流す仲間がいるよ、とつぶやく「みいさん」。

宮城県気仙沼市の階上中で卒業式。卒業生代表が、答辞を読む。「苦境にあっても、天を恨まず、運命に耐え、助け合って生きていくことが、これからの私たちの使命です」と。私たちの戦後もそうだったと「みいさん」は心の中でエールを送る。

「みいさん」は口に出して語ることは少ないが、この世代の人々が声高く語り伝えてくれれば、東北の被災地に限らず、さまざまな苦境にある後輩たちが勇気づけられるのではないか、と井上さんは『足跡』誌上で訴える。

1月19日付の本欄では、埼玉在住の男性の提唱として、戦争体験などの語り部役の話す姿と声を、DVDなどに記録すべきだとの意見を紹介した。広島市平和推進課では平成24年度から、そのような映像を基に「被爆体験伝承者」の養成を始めている。

いま活動中の被爆体験者の話す姿を資料に、当時の社会情勢も学んでもらい、3年計画で"語り継ぐ"人材を養成する。被爆2世のほか北海道・九州在住者を含め137人が受講中という。輪の広がりを期待したい。