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受ける側に配慮する 話し言葉と書き言葉

2013年9月24日付 中外日報(社説)

和歌山市長の大橋建一さんは、11年前に就任した当時、あいさつを述べるのが苦手だった。だが最近は、あいさつ上手になったと褒められることがある。場慣れもあるだろうが、心掛けているポイントが4点、あるという。

その第一は「簡潔に」だ。どんなに話し方が上手でも、長話は喜ばれないことに気が付いた。特に懇親会など、料理を前にした時は3分、長くても5分以内で収めるようにした。

第二は「話題を絞る」こと。「それから、それから……」と止めどなく話す人は、嫌がられる。だから大橋市長は「今日は三つ、お話しします」と、話の終着点を予告している。

第三は「同じ話をしない」ことだ。新年や、年度初めの時期には会合が多く、市長は必ず壇上に立たされる。場所は違っても聞き手は共通していることが多い。「少しでも新しい話題を散りばめて、話し方を磨く努力をしなければならない」日々だとか。

第四は「相手の心をつかむ」こと。会合の名称、主催団体の名は正確に発音する。その団体が挙げた業績の数字や拠出した寄付金額などに触れるときは、1のケタまで正確に言及する。

そして話の中に、ユーモアを交えて笑いを誘う。もちろん原稿を取り出して読むのは最低だ。「亡き文芸評論家・丸谷才一さんの話術がお手本です」

話し言葉を簡潔にと心掛ける大橋さんに対して、和歌山県立医科大講師の岡檀さんは、出版社の編集者から著書の書き言葉について「もっと字数を使っていいですよ」と言われたそうだ。

徳島県のある町の自殺率が低いのに注目、その理由を考察した成果を一般向きの単行本にまとめることになった。ところが5年間の大学院生活で、学会発表に提出する抄録を短く、短く書く習性が身に付いていた。修飾語もなければ比喩もない文体だ。

編集者は岡さんに「説明が濃縮され過ぎています。読者のためにもっとゆったり、字数を使ってくださいよ」と注文した。「ゆったり」という言葉に感動した岡さんは今、ゆったり、ゆったり書き進めていると、その出版社のPR誌に寄稿している。

短く話す言葉に聞き入る場合もあれば、ゆったり書く言葉に心引かれる場合もある。情報の受け手の立場を思いやる心が大切、ということだろう。教化の場で既に行われていることが、大橋さんや岡さんによって、さらに広まることを期待したい。