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日比親善に貢献した奨学金活動が30周年

2013年12月10日付 中外日報(社説)

日本キリスト教団日立教会(島田進・島田信子牧師、茨城県日立市)の「るつ記記念基金」が、11月に創立30周年を迎えた。中規模の教会の地味な活動であるが、日比親善のために着実な足跡をしるしてきた。

「るつ記」とは、戦後長く同教会の牧師を務めた藤崎信氏(現在は引退して埼玉県在住)の長女、藤崎るつ記さんのこと。ルーテル学院大に学び、インド・コルカタのマザー・テレサ設立の「死を待つ人のホーム」をはじめ、アジア各地でボランティア活動をした。路上で寝たこともある。

1983(昭和58)年にはフィリピンのルソン島で、恵まれない子どもたちのために奉仕していたが、4月2日、海で溺れかけた友人を救おうとして水死した。24歳だった。

旧約聖書「ルツ記」にちなんで名付けられたるつ記さん。聖書のルツは、自己犠牲に徹し、周りの人々を愛した。そのルツさながらに、るつ記さんは新約聖書ヨハネ福音書の「人がその友のために命を捨てること、これより大きな愛はない」を実践した。

日立教会の信徒はるつ記さんを記憶するため、フィリピンの貧しい学生に奨学金を贈る制度を設けることにした。それが「るつ記記念基金」である。

日立教会の呼び掛けに応えて、30年間に6千余件、5100万円の募金協力があった。基金発足に当たり、立正佼成会も金一封を寄せた。この資金で大学生や専門学校生に月額4千円、牧師を目指す神学生には6千円を支給してきた。

奨学生の選定には、キリスト教系のNPO法人や日本聖書神学校が協力する。今年度選ばれた男女各1人を加えて、奨学生の総数は98人。いずれもフィリピンの将来を担う人材である。

かつて日本軍が米軍との激戦にフィリピンを巻き添えにしたことから、同国は戦後、対日感情の最も悪い国の一つだった。島田進牧師がルソン島の教会を訪れた時、日本兵に傷つけられたという信徒から、礼拝への同席を断られたこともある。しかし「るつ記」奨学生が増えるとともに、市民感情の好転を感じたそうだ。

ヨハネ福音書には「一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かな実を結ぶようになる」の言葉もある。若い命をフィリピンで終えたるつ記さんは一粒の麦として、日比親善という大きな実りをもたらしたと言えるだろう。