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神徳と仏徳の下で"幻の花"を育てる

2013年12月14日付 中外日報(社説)

高知県西部の海辺の村落、四万十町志和には、背後の山から流れ落ちる高さ約30メートルの「轟の滝」がある。この地で農業を営む山本利幸さんは、中学生だった四十余年前の初夏、滝に近い湿地一面に、直径5センチほどの黄色い花房の群落があるのを見つけ、1株持ち帰って自宅の庭に植えた。折り紙人形の頭のような姿だ。

「その花、どこにあった?」と聞く人があった。うわさが広がって、各地から訪れた"愛好家"が抜き取り、あっという間に花の群落は消えた。絶滅危惧種の一つ、岩石蘭だと知らされた。岩のように堅い球茎から伸びるので、この名が付いたという。

かつては静岡以西の西南日本に群生していたのに、戦後、自生地がほとんど消えた。いわば"幻の花"だから、そこここから"愛好家"が殺到したようだ。

山本さんは残った株を拾うようにして集めた。自分の畑に広さ8アールのビニールハウスを作り、大切に育てた。直射日光に弱いので、育成には細かな気配りが必要だった。株は年々増え、一時は切り花として、全国各地の花市場へ出荷したこともある。

高知市の五台山には、四国霊場31番の真言宗智山派竹林寺に隣接して、高知県立牧野植物園がある。県出身の植物学者、牧野富太郎博士を記念する施設だ。博士は生前、志和を訪れている。その植物園は2年前、山本さんから岩石蘭の提供を受け、種の保存のために育成を始めた。やがては参観者に公開するという。

人口減と高齢化の進む志和を盛り上げるために結成された志和活性化協議会(竹村精史会長)は、岩石蘭を志和のシンボルとすることにした。11月15日には牧野植物園から稲垣典年解説員を招いて、散策と講演の会を催した。参加者は山本さんのビニールハウス見学をはじめ、地域内の植物相を観察した。サザンカやノジギクなどでも、種によっては保存策を講じておく必要があることを、稲垣氏から教えられた。

志和活性化協議会は今年から、山本さんの育てた岩石蘭の株を地区内の山野に定植したいと計画している。轟の滝周辺はイノシシの害が予想されるため、地区の氏神の天満宮や、臨済宗妙心寺派薬師寺の境内などに適地を求めたいとのことだ。

社寺の境内であれば、参拝者の目が届くから"愛好者"に持ち去られる心配がない。神徳と仏徳の下、愛郷心に支えられた岩石蘭の黄色の花が、初夏の志和を飾る日が近いことを期待したい。