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悠久の時生きる命 功焦らず地道に研究を

2014年4月16日付 中外日報(社説)

今年の1月末、STAP細胞が大々的に報道された時の驚きを今でも思い出す。マウスの体細胞を弱酸性溶液に浸して刺激を与えるだけで「万能細胞」になるという。iPS細胞のような遺伝子導入も不必要、簡便かつ迅速に細胞の初期化ができるということで、人々の期待を膨らませた。研究を主導したのが理化学研究所(理研)の若い女性研究者だという点でも大きな注目を集めた。

だが、その後の急展開は周知の通りである。論文データや実験そのものへの疑義が次々と指摘されて、夢の万能細胞もいっぺんに不透明なものになってしまった。

批判を受けて行われた理研側の調査報告に対して、女性研究者も4月9日に涙ながらに記者会見を開いたものの、結果として両者の見苦しい対立が印象づけられた。肝心のSTAP細胞の存在は実証されたのか、それとも単なる仮説段階のものにすぎなくなるのかは、今後の検証を待つほかない。

もしSTAP細胞が外部刺激だけで作れる万能細胞だというのが真実であれば、それはただ再生医療の基礎研究を飛躍的に進展させ、難病治療の将来に光明を与えるに止まらない。地球生命40億年の悠久の進化の謎を解き明かす糸口にもなり、いのちとは何かという問題に新たな視座を提供することになろう。しかし、発表があまりに時期尚早、論文自体も極めて杜撰だったため、そうしたいのちの神秘の解明もお預けになった。誠に遺憾と言わざるを得ない。

いのちは悠久の時を生きている。科学者は功を焦ってはならない。地道な研究によって、一歩一歩着実な成果を挙げていくべきだ。最近、同じ理研の別のチームが人体の主要な細胞約180種類について、別の細胞や異常な細胞と見分ける目印をDNA上で特定した。いわばヒトの細胞の特徴をまとめた「百科事典」であり、これをインターネットで無償公開するという。こうした着実な研究をこそ、科学者は進めていってほしいと思う。

一方、日進月歩の先端科学技術に対し、宗教界の理解がなかなか追い付かない状況がある。だが、いのちが有する悠久の時間を思えば、決して性急になる必要はない。というのも、宗教者は日々神仏と対峙することで、神仏から同じく悠久のいのちの糧を得ているからだ。宗教者は宗教者として、いのちのリズムに合わせた独自の取り組みを大切にしていきたい。

いのちへの問いは無限に大きく深く、科学者にも宗教者にも、絶えず探究と省察を促すものであり続ける。