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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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新たな年の指針 この国の行く先を誤るな

2016年1月6日付 中外日報(社説)

スプリングボックという動物は数千頭の集団が暴走し、崖から海に飛び込んで大量死することが知られている。食べ物を求めて移動する際、先頭を行く個体たちが我先に餌を奪い合うために走りだすと、つられて後方の群れも疾走を始めるとみられる。群れがどこに向けて進んでいるのかも分からないまま死のふちへと突き進むのは、ネズミの一種レミングでも分かっているが、人間の子供たちが集団で破滅へと導かれた「ハーメルンの笛吹き男」の伝説もある。

新しい年、我が国はどんな方向に向かうのだろうか。安倍政権は「1億総活躍」をスローガンにしているが、「十把一絡げの空疎な言葉」「戦前の『進め一億』のようでファッショ的」などの批判が集中。そもそも格差社会の拡大で「頑張ろうにも頑張れない」人が増えているし、貧困に苦しむ子供たちに「それでも活躍している」と上から勝手にレッテルを貼り付けるのは傲慢で暴力的だ。「誰も自分らしく」と甘言を振りまく一方で、マイナンバー制度が導入され、「便利になります」とのPRによって、まるで車や商品の製造番号のように全国民が管理される。

3月には東日本大震災から5年を迎えるが、2016年度からは国の集中復興期間は打ち切られ、地元負担が導入される。復興住宅建設が進まないのに仮設住宅制度が各地で終了し、ただでさえ耐用年数をとっくに過ぎたプレハブ仮設に住んでいた被災者が行き場に困る。原発事故は収束のめども立たないのに、新たな再稼働が着々ともくろまれている。東京オリンピックによる資材や工賃の高騰が復興の足を引っ張る。

同じ3月からは「戦争法」との批判で廃止への運動が盛り上がる安保法制が施行され、「平和のため」と称する戦地での「駆けつけ警護」によって国民が命を落とすような危険も高まる。「対テロ戦争」という文字通りの戦争に巻き込まれる恐れもある。政府がいかに「歯止め」を口にしても、アフガン戦争で後方支援限定のはずだったドイツ軍が、米国のリードによって泥沼の戦いに引きずり込まれ多くの犠牲が出た歴史的事実が杞憂ではないことを証明している。

「ハーメルンの笛吹き男」は中世ドイツの史実が背景にあるとされるが、その解釈には、昔の「少年十字軍」のような軍事行動であるとする説や、東方への植民地活動とする説もある。いずれにせよ、様々な虚偽の言葉によって国民を欺き、侵略や戦争、破滅に人々をいざなうような「ほら吹き」ならぬ「笛吹き男」は今年こそ、願い下げにしたいものだ。