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消えゆく「地方」 拱手して済む状況か

2016年9月14日付 中外日報(社説)

心が安らぐ一句である。

〈峠路や 下りも楽し 花の道〉

定年退職後、書道や旅行をはじめ数々の生涯学習が生きがいになったシニアが、その心境を野辺の花との楽しい出合いに見立てた。そこはかとなく浮かぶ里山風景が余韻として残る。人生には、上り坂にいる時は見えなくても、たそがれ時を迎え、心にある種のゆとりが生じて初めて気付く喜びもある。その気付きの場は、大都市より地方の方がふさわしい。

冒頭の句は「一村一品運動」で知られ、先月死去した前大分県知事・平松守彦さんの著作『地方からの発想』にある。生涯学習スクール卒業生の作文から取った。

平松さんは東京一極集中に抗して地方の自立・自助、生きがいづくりなど地域の活性化策をリードし、2003年まで知事を6期務めた。一村一品は1988年の新語・流行語大賞特別功労賞に選ばれた。同書の出版はバブル経済末期の90年。過疎は深刻だったが、まだ努力すれば報われる希望はあった。平松さんは「過疎は怖くない。自分の住む地域に愛着をなくし、やる気を失う『心の過疎』が最も怖い」と訴えていた。以来四半世紀余。日本は政策の失敗を起因とする「空白の20年」を経て人口減少社会に入り、地方の疲弊が一挙に進んだ。東日本大震災・原発事故の衝撃も見逃せない。

そんな中、地方振興策で「選択と集中」という乾いた言葉を耳にする。本来は経営効率化を指す経済用語だそうだ。だが、その考え方が、民間の「日本創成会議」分科会が一昨年出した、全国の自治体は2040年までに半減の可能性があるというリポートのポイントだった。社会資本投資の「選択と集中」を狙う国には渡りに船で、地方の拠点都市に重点を置く政策が動き始めると聞く。合理的な国土形成と言えば聞こえはいいが、過疎市町村・地域の切り捨てだ。地方の個性を生かした努力が報われる期待を失わせ、国依存や地域消滅の恐れが一段と高まる。

それでなくても4年後の東京五輪に向け、少子化が最も深刻な東京へのさらなる一極集中が進むと警告されている。国威発揚の号令の下、地域の衰退は覆い隠され、平松さんが恐れた以上に由々しい「心の過疎」が姿を現すだろう。

地域の荒廃は人々の命や生活を脅かす。共同体としての絆を結ぶ寺社は、その存続にも直結する。現在、無住寺院は約2万カ寺に上るが、国策と関連付けて問題に取り組む視点が求められていないか。足元の危機に手をこまねいていて事態は改善しない。