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“お試し改憲”の狙い 憲法に向き合う姿勢に懸念

2017年3月22日付 中外日報(社説)

安倍晋三首相が自民党定期大会で、施行70年の憲法の改定を発議する決意を表明した。党内では改憲項目の絞り込み作業を本格化、教育無償化と緊急事態時の国会議員任期延長を手始めに改憲具体化へ動くとの報道もある。賛同を得やすい項目から始め、異論の多い部分に広げる。そんな底意がのぞく“お試し改憲”である。

戦争の惨禍を心に刻んで営々と重ねてきた、個人の尊厳に基礎を置く平和主義の国づくり。その努力が「なかったこと」になりかねない。そもそも右記2項目は改憲なしに対処できそうで、安直な憲法認識が一層懸念を募らせる。

教育無償化は、日本維新の会の主張を考慮したものらしい。だが憲法は「義務教育は、これを無償とする」と定めているだけで、国公立以外の義務教育の授業料無償化拡大を禁じてはいない。教科書は私立の義務教育校にも無償化を広げている。教育無償化は通常の立法措置で可能であり、真剣に早期実現を願うならハードルの高い改憲ではなく、立法化努力をするのが筋、と教育専門家は言う。

衆院解散時などの空白期間をなくす国会議員任期の延長も、半数非改選の参院緊急集会で対応できるから不要というのが定説だ。もともと災害時、内閣に権限を集中させる自民党改憲草案の緊急事態条項導入が狙いだったが、ナチスが全権掌握に悪用した前例があって反対論が強い。それで議員任期を表に出したとも考えられる。

しかし、本来、災害は事前の備えと現場での機敏な判断、行動が不可欠だ。阪神・淡路大震災でも東日本大震災でもそうだが、大災害があると、なぜか地元事情に詳しい自治体より官邸機能の強化ばかりが議論されがちだ。付言すると、阪神・淡路では自衛隊など公的機関に救助された被災者は5%に満たず、多くは家族、近隣住民らに助けられたとの報告もある。

災害の都度、その経験を踏まえて関連法令が整備されてきた。阪神・淡路の取材体験から言うと国会議員が東京で緊急に集まっても、官邸に権限を集中しても、むしろ現場では上からの指示を待つ弊害が生じるだけではないか。

東日本大震災では原発安全神話が十分な防災対策や避難計画などの備えを怠らせ、結果として被害を広げた。今また、避難路の確保もおざなりにして原発の再稼働が進む。そちらこそが心配だ。

現政権は憲法との向き合い方が乱暴である。独善的な国体論を強制し軍国主義に導いた教育勅語を認める閣僚もいる。今の改憲論が、やがては信教の自由など憲法の根幹に向かわないとも限らない。