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ゲノム編集の意味 生命をつくりかえる科学技術

2017年5月24日付 中外日報(社説)

2015年4月、中国の研究グループがヒト受精卵のゲノム編集を行ったという論文を発表した。ゲノム編集による家畜や魚、野菜・穀物等の品種改良はすでに進められている。同じ技術でヒト、つまり人間のいのちをつくりかえることもできる。中国では、実際に子宮に入れはしないものの、胚の段階の人間のいのちの「つくりかえ」を行ってしまったのだ。

「ゲノム編集」とは何か。遺伝子等の情報が埋め込まれた塩基配列で、人間の場合、32億個の塩基対がある。これを組み換える技術は従来、「遺伝子組み換え」といわれていたが、高い確度で早くDNA配列の切断ができる新しい技術が開発され、「ゲノム編集」と呼ばれている。中でも、12年頃に開発されたクリスパー・キャス・ナイン(CRISPR/Cas9)と呼ばれるツールは、DNAを入れかえる確度が格段に高い。ここ数年の間に世界の生命科学者によって爆発的に用いられるようになっている。近い将来にノーベル賞を受賞するだろうともいわれている。

難病のDNA因子を抱えている親が子どもを産むとき、ゲノム編集で危険を避けることができる。安全性が確かめられた場合、これを「やらない」という判断ができるだろうか。求める人はそこに救いを見いだす。それを拒むのは難しい。他に手段がないとなれば正当化できると考える科学者は多い。

では、難病とは何か。治療が難しいから難病なのだが、対象の範囲を限定することはできないだろう。その範囲はどんどん広がり、「人間のいのちをつくりかえる」ことになりかねない。数年前に乳がん予防で乳房切除したアメリカの女優が話題になったが、ゲノム編集で予防すればよい、という議論になる。長寿のためのゲノム編集さえ予想の範囲に入っている。

このような「いのちのつくりかえ」を禁止する決断を人類社会はできるのだろうか。「できないだろう」と予想する科学者や科学ジャーナリストは多い。「かわってしまった未来の人類」を描き出す書物は多数あったが、いよいよ実際的な事柄になった。

「いのちをつくりかえる」ことは、宗教が教えてきた「いのちの尊さ」の意義を見失わせないだろうか。「授かりもの」「恵み」としてのいのちへの感謝の気持ちや謙虚さを弱らせないか。「限りある個々のいのち」や「限りあるが故にこそ尊いいのち」への畏敬の念を遠ざけてしまわないだろうか。弱さ故に連帯する社会的絆の基盤を掘り崩さないだろうか。宗教からの応答が待たれる。