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ヒロシマをまどえ 核禁止条約の実効化を

2017年8月2日付 中外日報(社説)

「ヒロシマをまどうてくれ!」とふ平和宣言蝉しぐれの中面あげて聴く

国連加盟193カ国のうち、122カ国の賛成で核兵器禁止条約が採択されたと伝えられた。その日、7月8日に京都で開かれた短歌の会に、広島に長く住んだ長岡洋子さんが、右の歌を出詠した。かつて聞いた松井一實市長の平和宣言の一節を詠んだものだ。

「まどうてくれ」は「弁償してくれ」を意味する広島の方言である。松井市長は原爆記念日に、広島市民共通の思いを、宣言の中に端的に織り込んだ。

「核なき世界」の実現は広島・長崎の被爆者の願いである。核兵器と無縁の国連加盟122カ国の提唱は被爆者、ひいては日本国民の思いを代弁するものだ。

しかし今回の条約に、核保有国は参加していない。さらに軍事条約により「核のカサ」で守られている国々も不参加である。日本もその一つだ。

世界唯一の被爆国が、国連の場で核兵器禁止条約の成立に参加しない矛盾。国際情勢上、やむを得ない事情もあるだろうが、非条理の極みではないだろうか。

幸い122カ国は、日本に救いの手を差し伸べてくれた。条約の前文に「核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)と核兵器実験の被害者にもたらされた苦痛と被害を心に留める」と明記したのだ。

条約採択の場に居合わせたカナダ在住の被爆者サーロー節子さんは「この惑星(地球)を愛しているなら、この条約に署名してほしい」と各国首脳に訴えたという。各国首脳の中にはもちろん、日本も含まれている。

昨年5月、オバマ米大統領(当時)が、原爆投下への謝罪の言葉抜きで広島を訪れた時、広島市民の多くが歓迎の意を示した。ある女性作家は雑誌への寄稿で「抗議行動どころか、歓迎ムード一色。原爆を落とされたことの怒りや苦しみは、もはや完全に風化した。日本人の怒りは漂白され、核兵器廃絶の理想を語る言葉だけが踊る」(要旨)と記した。

だがこの文章には、人心の機微についての洞察が欠けている。広島市民の本心は、長岡さんの短歌のように「ヒロシマをまどう」ことを求めている。昨年5月の広島の人々は、オバマ氏の行動に不立文字で謝罪の思いが込められていることを、以心伝心で感知していたのではないか。

「ヒロシマ(ナガサキ)をまどう」とは、全ての国が核兵器禁止条約に署名し、条約を実効あるものとすることではあるまいか。

せみ時雨の中、72年目の夏。