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「酔って醒める」政治 道を踏み迷わないために

2017年10月11日付 中外日報(社説)

小選挙区制になって選挙のたびに激しく事態が変化する。劇的な行動や派手なパフォーマンスで成功する政治家が増えた。2005年に郵政民営化を掲げて大勝利を収めた小泉純一郎首相はよい例だ。16年の東京都知事選挙で勝利した小池百合子氏は小泉元首相に倣おうとしているように見える。

日本だけではない。アメリカでトランプ氏が大統領になり、フランスでマクロン氏が大統領になったのも似たところがある。既存政党への依存度が低く、政治的実績も目立たないが、大衆の心をつかむことに長けた候補者が予想外の勝利を収める。

目まぐるしい政治の動きを見ると、これまで受け入れていた価値観や判断基準への信頼感が揺らいでくる。日々の地味な仕事や研鑽によって得られるものが、あまり値打ちがないように思えてしまう。このような経験は「魅惑される」「魅了される」という言葉で捉えるとよいかもしれない。

何事かに「夢中になる」経験をした時期はほとんどの人が持つ。大人になっても、何か新しいことに夢中になる機会はそこかしこに転がっている。未来を指し示す方向がそこにあるように感じる。生き方の方向づけを感じ取って心躍る経験だ。言うまでもなく、これは宗教でもよく見られることだ。

では、このような熱狂によって道を踏み迷わないようにするにはどうすればよいのか。群集心理の研究者たちは「自分は醒めている」と意識し、熱狂している人々を冷ややかに見ようとするのも、隠れた群集心理だという。「酔っている」ことは自覚した方がよいが、自分は「醒めている」という意識も疑った方がよい。孤独だと感じることも群衆の作用であり、実際は必ずしも的確に物事が見えているわけではない。

大切なのは、長年の学びや仕事や経験を通じ自らが養った知性や感性と、新たな経験を突き合わせる努力を続けることだろう。自分自身の判断基準を自覚的に育てていく。そして、新たな事態に対して心を開いて対話する。もちろんこれまで養ってきた基準では分からないことも多い。無知の自覚を持ち、謙虚に歩いていくことだ。

選挙は昔から熱狂を呼ぶものだった。だが、昨今は熱狂が一段と強められ、変化も激しい。他者から学ぶ姿勢を忘れず、自らの判断を異なる見方に照らして省み、じっくり歩む姿勢を培いたい。そういう姿勢が広まることで、劇的な政治の在り方をもう少し落ち着いたものにしていけるのではないだろうか。民主主義が成熟していくのは容易なことではないのだ。