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社会分断の危険 問われる政治の包容力

2017年11月8日付 中外日報(社説)

先の東京都議選の演説で安倍晋三首相が叫んだ「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と、衆院選で希望の党代表の小池百合子・東京都知事が語った「リベラル派は排除する」発言に響き合うものを感じている。あえて一言で表すならば、「分断」という言葉になろうか。

社会の深い亀裂を政治が増幅する。その構図は根が深く、選挙が終われば済むものではない。とげとげしい「対立の世」を融和する努力を欠き、荒涼とした風景が政界や言論空間から人の心の領域まで侵食していくことを恐れる。

衆院選挙戦の最終日、首相の秋葉原での演説会場には日の丸の旗が林立し、首相の演説が旧民主党と新党批判に及ぶと日の丸の小旗が波打った。政権批判をするテレビ局スタッフに聴衆の怒声が浴びせられ、反安倍派とのののしり合いもそこかしこで起きたという。

「モリ・カケ疑惑隠し」とも批判された唐突な解散・総選挙で自民党が大勝し、1日には何事もなかったかのように新内閣が閣僚全員再任で発足した。だが、北朝鮮の脅威を国難として解散理由に挙げた選挙戦略でも明らかだが、人々の憎悪や怒り、焦燥感など対立感情に訴えたこの特異な選挙には後味の悪さが残る。

政治家の「語り」が政敵を言い負かし打撃を与えることばかりに熱中して、最適解を考えようとしない。少数意見に耳を傾ける姿勢に乏しい政権は、いわば「みそぎ」を終えたとして今後、念願の改憲作業を本格化させるだろう。ただ、世論は各種の調査で依然、改憲の賛否は二分する。拙速に進めると、一層深刻な社会的分裂が起こる。それでも反対派を国会の多数の力で押し切るなら、それは全体主義に他ならない。

意に沿わないものははじく。小池都知事の「排除」もそれだ。個人の自由を重んじるリベラルは本来、寛容と重なるはずだが、日本は護憲派のイメージが強い。改憲に積極的な小池知事の対応は予想され、結果として野党分断と自民大勝を招いた。だが、そもそも民主主義は少数意見の尊重を生命とする。熟議もなく、党の根幹が時の「風」で一人の人物の政治信条に左右されていいはずがない。

今の世、人々は自分が正しいと信じる人々に取り巻かれ、それ故に争い事が起こる。かつて金子大栄は「正義は負けろ」「我正しと思わば負けよ。さすれば平和あり」と語ったそうだ(『仏教名句・名言集』)。人々の多様な価値観が渦巻く現代社会である。我執にとらわれる政治家の思考と言葉の軽さを改めて思い知る。