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「人」を測る尺度とは 「一隅照らす人」忘れない

2018年1月31日付 中外日報(社説)

安倍晋三首相は第196通常国会で行った施政方針演説の冒頭で、明治時代に東京帝大総長を務めた山川健次郎(1854~1931)の言葉「国の力は、人に在り」を引用した。

この後、「女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、全ての日本人がその可能性を存分に開花できる」と演説は続き、持論の「一億総活躍社会」の実現を念頭に置いての発言だったと思われる。

徳川幕藩体制の下で長く鎖国を続けていた日本は、明治維新によって「遅れてきた国」として国際社会という荒海にこぎ出し、先進国の欧米諸国に対峙することになった。アジアの植民地化を狙う列強に伍して独立を守るため、維新政府は「富国強兵」「殖産興業」を国造りの柱に据えた。

山川は戊辰戦争で官軍に敗れた会津白虎隊の生き残りで、生涯、会津人として強い感傷意識を持ち続けたが、後に貴族院議員などを務め男爵に叙せられたことからも分かるように、故郷を血祭りにして成立した明治という国家に強い不満を持つことはなかったとされる。(司馬遼太郎『翔ぶが如く』)

つまり、「国の力は、人に在り」の「人」とは、軍事的に国を強くし、そして産業を興して経済的に国を豊かにする人材、国に役に立つ人のことだ。時代がそのような人づくりを必要としていたのである。

明治時代と平成30年とでは日本の置かれている状況は異なる。安倍首相は、歴史上かつてない少子高齢化という「国難」を「一億総活躍社会」によって克服しようとの決意を山川の言葉に託した。両者に共通しているのは「国(への貢献)」が人を測る尺度になっていることだ。

国が豊かになることは悪いことではないが、全ての人が同じように豊かになれるわけではなく、また豊かになれない人もいることは格差社会が証明している。この格差をどう是正し、貧困にあえぐ人たちをどう支えていくかが今問われている。社会保障費支出の対象者は「国の力」にはならないと切り捨てる政策がこれまでまかり通ってこなかったか。

伝教大師最澄は『山家学生式』で、社会の一隅にいながら、社会を照らす生き方をしている人のことを「国宝」とした。「径寸十枚、是れ国宝に非ず」。直径3センチの宝石10個(国への貢献)のような派手さはなくとも、世の中の一隅で人々に希望を与えている人の存在を忘れない。

それでこそ全ての人の可能性が開花する。