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いのちの選別 出生前診断拡大に危惧

2018年3月2日付 中外日報(社説)

妊婦の血液で胎児のダウン症などの障がいを調べる新型出生前診断で、日本医学会の認定を受けずに検査を実施している民間医療機関が対象疾患を大幅に拡大する動きを見せていることが報道された。元々この検査は野放図な拡大を防ぐために日本産科婦人科学会(日産婦)の指針に基づき、対象をダウン症など3種に限り、妊婦にも高齢や妊娠期間などの制限を設けた上で、実施機関も丁寧な遺伝カウンセリングの体制が整っているなどの条件を付け、大学病院など認定89施設に限定していた。

問題の民間施設は、患者の多い筋ジストロフィーや知的障がいの原因となる疾患など多くを検査すると宣伝しているが、カウンセリング体制が整わないところもあり、依頼者のもとへ検査結果を郵送するだけという実態もあるとされる。何のカウンセリングもなしに「陽性」の結果を突き付けられた妊婦の動揺は想像に難くない。

生命の判定が商業ベースで広がっているわけだが、事態を問題視した日産婦側も年齢制限撤廃や対象疾患拡大、施設認定条件の緩和を段階的に検討する方針を固めたという。これまで臨床研究扱いだったのを一般診療に広げて施設を増やすことで認定外に“対抗”する姿勢だが、懸念が残る。

新型に限らず出生前診断は、障がいなどを理由にした「命の選別」につながる恐れが一貫して指摘されている。現に新型については2013年の導入から4年で受検者5万1139人のうち「陽性」と診断され、確定検査でも「異常あり」と判定された700人のうち、9割以上の654人が人工妊娠中絶を選択した。もともと中絶件数が非常に多いこの国で、制限の緩和は今以上に妊婦に苦難を選ばせる恐れがあるだろう。

先の民間機関は指針に反するが規制する法律はないので違法ではなく、まさしく倫理問題である。それは医療だけの論理で暴走する危険を常にはらむ。現に、多胎妊娠で胎児を選別中絶したり学会の指針に反して代理母の措置を実行している医師は「目の前の患者のため」と強調している。ここに「いのち」の価値を絶対的に重んじるはずの宗教者は、もっと積極的に関与する必要があるだろう。

かつて「不幸な子供が生まれない運動」として行政が出生前診断を推奨した。終末期医療に関わるある僧侶は、幼時に難病と診断されたが、後にその病気が出生前診断の対象であると知って衝撃を受けた。「医療者があらゆるいのちの尊厳を理解せず病気を不幸と決めつける価値観が、患者を本当に不幸にする」との言葉が重い。