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分断社会の危険 他人事ではない「暴走」

2018年4月20日付 中外日報(社説)

悪いと知らず犯した罪は、知った上で犯した罪より重いと仏教は説く。逆説めいているが、無自覚な悪行は、ためらいがないからより大きな災いを招く。さらに悪の認識がないと罪悪感がないから何度も繰り返す、ということか。

この教えを敷衍すると、世の動きへの無関心や傍観も罪が重かろう。時代の空気に潜む暴走の危険に背を向けていては、結果としてそれを丸ごと肯定し、取り返しがつかなくなっても責任を感じない。

イラク戦争終結前に「反戦イラク帰還兵の会」がまとめた帰還米兵たちの証言集『冬の兵士』(岩波書店)に印象深い文章がある。

「大多数の(米)国民の沈黙は、イラクの人々と我が国の兵士たちの死を意味してきました。米国民は耳をふさぎ、目を閉じて日常に追われることで自分の人間性を放棄しています。戦争に反対でありながら、それを終わらせるために何もしないことで自分の人間性を放棄しています」

米英が、大量破壊兵器があると偽って2003年に始めたイラク戦争は泥沼化し、11年に米軍が完全撤退するまでにイラク国民の犠牲者は婦女子を含め数十万人に上ったともいわれる。同盟軍側も米兵だけで4千人以上が死んだ。

同書の証言集は08年に開いた帰還米兵らの公聴会に基づくが、昨年末、反戦を訴え来日した帰還元米海兵隊員から大学の公開講義で直接話を聞く機会があった。

彼は、イラクで、ドアを爆破し押し入った民家で泣き叫ぶ子どもの声が耳に残り、10年以上たった今も眠れない夜がある。テロと戦っている自分がテロリストかと疑い、武力は憎しみを生むだけで絶対に平和をつくれないことを戦場で思い知ったという。

イラク戦争では、テロへの恐怖と憎悪で米国民が分別をなくし、ナショナリズムが暴走した。冷静であるべきリベラル派メディアまでが開戦に前のめりになり、深刻な反省を迫られた。外敵の脅威が国を誤らせた歴史を人は数々刻んできたが、昨今の日本も楽観できぬ事象が噴出してきた感がある。とりわけ深い懸念が生じるのは政権を批判するメディアを「反日」と攻撃する世の異様な風潮だ。

最近、ネット上などで同意見の者だけが狭いコミュニティーに閉じこもる現象を、部族中心社会になぞらえ新トライバリズムと呼ぶそうだ。嫌韓・嫌中をあおる「ネトウヨ」集団もその一つだが、この究極の分断社会は将来、暴走を始めかねない怖さがある。共に生きる社会を否定する潮流だけに、関わらずに済む問題ではない。