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戦没船の悲劇 海の平和を守る気概

2018年5月9日付 中外日報(社説)

先の大戦で軍に徴用され物資や兵員輸送に従事、戦没した商船、漁船員らは6万人を超えた。うち4人に1人は14歳から18歳までの少年だった。商・漁船員らの戦死率は陸・海軍人の2倍以上の4割強に上ったと推計されている。

軍優先で民間船はろくな護衛がなく、船員は兵器も扱えないなど理不尽な差別があったらしい。だが、祖国のためと信じ、また軍の命令に逆らえず死地に追い立てられた。

戦没船の悲劇は、今なお十分に検証されていない。しかし、海洋国家日本は平和な海こそが国の生命線であることを教えてくれる。平和憲法の改定論議で置き去りにはできない大事な論点だ。

戦時中の戦没船は7千隻以上という。その資料が神戸・メリケンパーク近くの「戦没した船と海員の資料館」に保存されている。全日本海員組合が運営し、館内の壁6面が1400隻に及ぶ戦没船の写真で埋め尽くされている。

南方に石油などの資源を求めた戦争だが、軍はその輸送や補給の困難さを軽視した。制海権も制空権も失うと、丸腰の民間船は米潜水艦や航空機の熾烈な攻撃にさらされ船員の犠牲が急増。軍は商船学校などの訓練期間を短縮し、未熟練な少年たちを泥縄的に戦線に駆り出した。戦没船員に少年が多いのはそのためだ。本土では商、漁船団が壊滅したため海上物流が途絶え、人々を苦しめた。

この不幸な体験は、総力戦時代に入り日本は戦争への耐性が実に脆弱な国であることを示唆していたはずである。

同資料館に「商船乗りは日章旗のもとでは死するとも、軍艦旗のもとでは死なじ 或る機関長の雄叫び」と記す掛け物がある。死を賭した航海は国を愛するから。命を使い捨てにする軍のためではないという心情の表白か。国の支えは、むしろ海運を担う商船員なのだという自負と気迫を感じる。

それに引き比べ、近年の戦争を知らぬ世代、とりわけ政治家たちが声高に語る「愛国心」が、なんと薄っぺらに聞こえることか。

しかも昨今、海の平和の願いに反し、気になることが相次ぐ。自衛隊日報問題も一つだが、より深刻なのは安倍政権の安保政策を批判する国会議員に幹部自衛官が公然と暴言を浴びせた事件だ。国の実力組織の一員の常軌を逸した行為の思想を懸念する人が多い。

話を戻すと、戦没船の少年たちは戦況も知らされず命を落としていった。その悲劇は現憲法下では考えられず、もとより繰り返しは許されない。苦い歴史を学んだ者に課せられた重い宿題である。