ニュース画像
就任の挨拶をする鬼生田俊英宗務総長
主な連載 過去の連載
エンディングへの備え
時代を生きる 宗教を語る
購読のお申し込み
新規購読キャンペーン
紙面保存版

生命をつくる技術 科学の暴走を制御する叡智

2018年5月16日付 中外日報(社説)

「生命をつくる」ことは可能だろうか。生命のないところから新たに生命をつくることはできない。だが、新たな生命体をつくったり、生命体をつくりかえることはできるようになった。「ゲノム編集」という語を聞く機会が増えた。野菜や穀物、家畜のゲノム、つまり遺伝子の集合体の一部を入れ替え、品種を改良することが簡単にできるようになった。これまでも遺伝子組み換えは行われていたが、大変手間がかかった。これが容易にできる技術が開発され、「ゲノム編集」と呼ばれている。

例えば、特定の遺伝子を原因とする病気がある。その遺伝子をなくすか、入れ替える「治療」を行えば、その病気にはならないで済む。だが、これを受精卵や生殖細胞に施すとどうなるか。遺伝子を入れ替えた人間が生まれ、新たなゲノムを持った人が繁殖する。マイナスの因子を持った人が生まれないようにできる。これは人の育種ではないか。

以上は、長い進化の過程を経て形成された複雑な生物を「つくりかえる」科学技術だが、もっと単純な生物を「つくる」研究も進められている。「合成生物学」と呼ばれる分野だ。新たな細菌をつくる。それを利用して薬をつくり、バイオ燃料とする可能性も探られている。感染症を除去するため、媒体となる蚊の種を除去するなど、種を駆逐する「遺伝子ドライブ」の技術も実験されている。

今後「生命をつくる」技術が世界経済の駆動力になる可能性もある。危惧されているのはテロに利用され、過失により広まることだ。新たな生物兵器がつくられる可能性も想定できるが、それを防ぐためには危険なものをつくってみなくてはならない。須田桃子氏の『合成生物学の衝撃』(2018年)によると、アメリカの国防高等研究計画局(DARPA)は合成生物学研究の最大のパトロンだ。

しかし、「いのちをつくる」ことは人間の生きる環境を根本的に変えてしまう可能性がある。いのちの恵みの大方は人がつくったものではない。人のいのちは授かるものだ。多様な生命が構成する環境も賜物と受け止められてきた。多様な生物種を人が自分に都合の良いようにつくりかえることができるものではなかった。

いのちは「恵み」「賜物」である。これは宗教が教え伝えてきたことの核にあるものではなかったか。そのようないのちの在り方をかえることができる科学技術をどう制御し方向づけるのか。人類の叡智が問われている。科学先進国では議論が始まっている。日本の人文学と宗教はどう応じるのか。