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「写憲」の勧め 憲法の正しい理解を求めて

2018年6月8日付 中外日報(社説)

ある新聞の投書欄で14歳の中学生が「写憲」を勧めていた(5月15日、毎日)。社会の授業で普段触れる機会の少ない憲法を「写経」をまねて写し始めると、すっと内容が心の中に入ってきて、すらすら手が動いたという。前文を含め約1万字の憲法のどこを写し、学びの深度はどれほどか定かではない。とはいえ安易に米国の「押し付け」と決め付ける改憲論が声高な中、教育の場でじかに憲法と向き合う意義は小さくはなかろう。

ただ、投書の「憲法の内容を正しく理解している人はどのくらいいるのだろうか」という問いは耳が痛い。憲法の理念や思想は人類の英知の結晶で「不断の努力」で守ることを求められている。それがかなわないと、どうなるか。

憲法はGHQ(連合国軍総司令部)案を下敷きに、日本側で数々の修正が加えられた。代表格の一つが25条1項の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という有名な生存権規定。衆議院で追加され、生活保護法の基になった。ところが、この“純和製”の条項が近年、ほとんど顧みられない。

日本は子ども7人に1人が貧困で、母子家庭の窮状は見過ごせない。ワーキングプアという言葉が象徴する貧富の格差も一段と進んでいる。深刻なのは急速に増える高齢者も同様だ。最近、葬儀に参列しない高齢者が多いと聞くが、交通費や香典を出すと次の年金まで生活が持たない人が増えているという。葬儀に出ないと親戚や地域との付き合いが減り、認知症のリスクも高まる。経済的な困窮は社会とのつながりを失い、ごみ屋敷で孤独死という悲しい終末を迎える事例が後を絶たない。

特殊清掃業という業種がある。孤独死などで遺体の発見が遅れた室内を元に戻すのが主で、業者は5千社余に上り、民間資格の認定制度が始まってからわずか5年で15倍以上にも急増したという。

見えぬ所で貧困が広がっている。本来なら生活保護で救えた命が多かったはずだが、受給のハードルが高く、保護が必要な世帯の5分の1ほどしか受給していないともいう。それが逆に申請をためらわせる悪循環になってきた。

安倍政権は生活保護費を5年前大幅に引き下げたのに続き、この10月からさらに引き下げる。受給世帯の生活も、生存の瀬戸際になると懸念されている。

こんな状況は憲法を「正しく理解」していない表れではないか。危機に立つ平和主義もそうだが、次世代に恥じない憲法への理解を今、迫られているように思う。