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震災体験の風化 なお遠い「心の復興」

2018年6月29日付 中外日報(社説)

東日本大震災の発生から7年3カ月を経て、被災地各地では様々な施設などが次々完成している。市街地の大部分が壊滅した岩手県大槌町では山間の高台に小中の一貫校が開校し、現代的な設計の校舎に子供らの声があふれる。少子化に震災による人口減の中で町内5校を思い切って統合し、国の1校当たり約1億円の補助金をまとめて立派な設備ができた。

釜石市から北へ延びるJR山田線は線路や駅の多くが流失していたが、復旧工事が各地で進み真新しい駅舎も姿を現した。道路は至る所で整備が急ピッチ。陸前高田市では長く荒野のままだった高台に巨大なショッピングセンターがオープンした。

ただインフラの復興に比べて個人の生活再建は遠い。大槌ではいまだ2千人が仮設住宅で暮らし、一方で他県も含めて各地では、ようやく移転できた復興住宅でコミュニティーができずに孤立死問題が起き、逆に空き家だらけの仮設団地では取り残された独り暮らしの高齢者が引きこもっている。あちこちで個人住宅の新築ラッシュが見られるが、周辺は空き地だらけ。釜石の住職は「被災で疲弊し建てる費用がない。工務店に依頼しても『オリンピックで人手も資材もない』とそっぽを向かれる」という。原発事故で強制避難が続く福島では帰還さえかなわない。

生活が再建できない中で、「心の復興」も困難だ。宮城県気仙沼市では撤去された仮設商店街に入っていた商店の多くが新たに店を構える資金がなく廃業。周囲のハード面の復興が一見、進めば進むほど置き去りにされた気持ちで、「もう生きる気力が失せた」と住職にこぼす人がいる。同時に、家族を亡くした悲しみの感情や犠牲者への追悼の心さえ“風化”していると指摘する宗教者もいる。

6月11日の月命日、多くの役場職員が犠牲になった大槌町の旧役場庁舎前では遺族や住民が「最後の」祈りを捧げた。町が解体を決め、下旬に工事が始まるからだ。いつもは慰霊行事に臨む地元住職はこの日、震災遺構として庁舎保存を求め解体を差し止める仮処分申請のために盛岡地裁に赴いた。

「庁舎は無念のうちに亡くなった方々の墓碑銘。なぜ避難指示も出さずこんなに犠牲が出たのか。検証もなく解体すれば、被災体験の風化に拍車を掛ける」と訴える。僧侶が訴訟をすることを疑問視する声にもきっぱり答える。「誰からも支えてもらえない遺族の悲しみに寄り添うことこそ僧侶の使命。二度と悲劇を見ることがないように教訓を残すためには行動を起こすしかありません」