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「平和の配当」の恩恵 報道は忘却を許されぬ

2018年8月10日付 中外日報(社説)

「平和の配当」という言葉は、もとは米ソの冷戦終結時、過大な軍備費が民生分野に回され、安全で豊かな国民生活が営めるという趣旨で語られたという。裏返すと軍事的緊張は社会に深い苦痛と負担、生活の不自由をもたらすという時代を超えた真実の一側面を言い当てている。先の大戦の惨禍を体験した日本の場合は、終戦で軍国主義の桎梏から解放され、人々が自由を得た。それこそが最大の「平和の配当」だったといえる。

代表的なのが言論・表現、思想の自由、さらに信教の自由ではなかったか。平和の到来で初めて享受できた貴い国民の権利である。だが近年、それが危うい事態に直面しているという声を耳にする。戦前・戦中、自由にモノが言えなかった害の大きさは述べるまでもない。軍部の専横を批判し続けた反骨のジャーナリスト、桐生悠々は1936年の二・二六事件に個人誌で「だから言ったじゃないか」の文言を繰り返し、厳しく軍を断罪した。しかし大手の新聞は煮え切らず、やがて大本営発表を唯々諾々と伝え、戦意高揚に協力していく。うその代名詞になった大本営発表は延べ846回行われたそうだが、大戦中の戦没者310万人のうち200万人は、敗戦が決定的になって以降の1年間に集中した。軍の統制下とはいえ、国民が事実を知れば終戦が早まって犠牲者はもっと少なくて済んだはずだという疑念は消えない。

「平和の配当」としての言論・報道の自由を考えるとき、多大な犠牲を払った不幸な歴史を忘れることは許されない。だが「売り家と唐様で書く三代目」という江戸期の川柳があるように、戦後民主教育を受けた世代も3代目に入ると記憶も薄らぐのか、最近のテレビは政治への批判報道が減り、新聞は政権と向き合う立場が分断されて政治への監視機能の弱体化が目立つという指摘が少なくない。

特定秘密保護法、安全保障関連法、TPP関連法、改正組織犯罪処罰法(共謀罪法)、働き方改革関連法、参院定数6増の改正公選法、通称カジノ法。いずれも第2次安倍政権が多くの国民の反対を国会の多数で押し切った法律だが、政権の支持率は依然底堅い。

昨今のメディア状況に「マスコミがかなり統制され、国民が真実を知ることができず、強要された国家の宣伝に我々は従うようになってきている」(要約)と全体主義的傾向を懸念する論(中島岳志、島薗進『愛国と信仰の構造』)もある。

社会の批判力が衰弱する中、この夏は時代の潮流を見据える眼力を磨いておきたいものである。