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ILC誘致計画 広い視野から慎重な検討を

2018年8月24日付 中外日報(社説)

この宇宙は百数十億年前にビッグバンで誕生したという。宇宙の膨張が始まったその特異な時間・空間で一体何が起きたのか実験室で確かめようとする壮大な計画がいま日本で検討されている。

国際リニアコライダー(以下、ILC)という実験装置を国内に誘致する動きがそれだ。ILCは簡単に言えば、全長約20キロの直線状の加速器。「現在達成しうる最高エネルギーで電子と陽電子の衝突実験を行う」(ILC計画HP)。専門的な話は省くが、宇宙最初期の超高温を再現し、時間や空間、質量といった根本的なものがどのようにして形成されたかを解明するのが狙いとされる。

宇宙の永遠の謎に挑戦するロマンあふれる話で、しかも波及効果が極めて大きいという。同計画HPによれば「技術の産業波及、地質や環境などの調査、教育・医療・文化育成への利用など、多岐にわたって還元」されるだけでなく、世界の尊敬を集め、日本の安全保障にも貢献する。文科省は経済効果2兆6千億円超と試算する。

素晴らしいことずくめのILC建設の候補地は宮城県から岩手県にまたがる北上山地の地下だ。両県も「産業振興・技術革新、雇用創出・人材育成、地域振興など」「東北全体の発展につながる」(宮城県公式HP)とILC誘致推進を強く打ち出す。

ところが、このほどお膝元から異論が上がった。「ILC誘致を考える会」共同代表の千坂げんぽう氏ら岩手県の僧侶3人が山下祐介氏ら研究者3人と連名で「誘致は時期尚早」とILC問題を再審議する日本学術会議に訴えたのである。千坂氏は樹木葬や里山再生運動で知られる禅僧、山下氏は社会学者で学術会議連携会員だ。

「考える会」の誘致慎重論は、「時期尚早」とする日本学術会議の5年前の所見も踏まえている。日本が負担する巨額の建設費(当初計画を縮小し5千億円超)に見合う科学的効果があるかどうかは、まず大きな問題である。

それと同時に千坂氏らが懸念するのは環境への影響、地元の財政負担などリスクが十分に説明されていない点、事業期間(20年)後の核廃棄物最終処分場転用の可能性などだ。小中学校の授業を利用しILCをPRするが、結局は次世代に負担を押し付けることにならないかとの危惧も理解できる。

「東日本大震災からの復興につながる」といった言説には異を唱えにくい。しかし、具体的な裏付けはあるのか。学術会議の所見は年内に示されるようだが、誘致は直近の利害を超えた広い視野から慎重な検討を加えるべきだろう。