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誇るべき文化遺産 日本語の文化を大切に

2018年8月29日付 中外日報(社説)

英文を日本文に直すときに誰でも気付くが、訳文の方が原文より長くなる。漢文の場合も同様で、例えば「色即是空 空即是色」は色と空という文字をそのまま使っても、「色はすなわち空であり、空はすなわち色である」と字数にして倍以上になり、暗記暗誦に向いていない。これは日本語の音韻組織によるところが大である。

日本語の音韻の基本は子音+母音で1字になる。その結果、日本語は大変聞き取りやすいのだが、他方では問題もある。いま単純化して、仮に10の子音と五つの母音があったとして、木や田や矢のような、1字で1語の単語が幾つ作れるかというと、10の5倍で50である。

それに対し、子音+母音+子音の組み合わせ(canのように西欧語に多い)では500になる。同様に2字で1語の単語の場合を考えると、差ははるかに大きい。つまり日本語の場合、多くの語を作ろうとすれば、1語当たりの字数が増えるわけで、文は長くなる。

俳句の場合、17文字という制約のもとで単語が幾つ使えるかといえば、「古池や蛙飛び込む水の音」のように通常10語に満たない。それに対して、最近俳句に触発されて西欧で流行っている17音節の短詩の場合、単語が幾つ使えるかというと12~13が普通だ。言い換えると文なら単位面積、音声なら単位時間当たりの情報量は日本語の場合少なくなる。これは日本語の欠点といえるだろう。

さて、先に挙げた「色即是空」の例でいえば、日本文に直すと「は」や「で」という助詞が入るから余計長くなるのだが、日本語の助詞は語と語、文と文の区別と関係を明示する点で優れている。その結果、語と語の間を空けずに書いても容易に読み下すことができる。もし英文を語間の空きなしに書いたら、ひどく読みづらいことだろう。

私たちが日本語を使うのは運命のようなものだが、日本語は漢字を取り入れ、仮名を発明し、膨大な文学的遺産を残してくれた先人たちがつくり上げた言語体系である。明治期には作家、思想家が言文一致体を完成させ、多くの訳語を作り、古文とは区別される現代文を創造した。私たちが、多くの旧植民地とは違って、西欧語ではなく日本語を使っていられるのはそのおかげである。

残念ながら私たちには自分たちの文化を大切にしない傾向があるようだ。日本語はダサイ、カタカナ語はカッコイイという「感覚」のことだ。しかし、よき日本語の創造こそ私たちの責務だろう。