ニュース画像
敬白文を読み上げ決意を示す菅管長
主な連載 過去の連載
エンディングへの備え
時代を生きる 宗教を語る
購読のお申し込み
新規購読キャンペーン
紙面保存版

巨大な数字の幻惑 「経済効果」への疑問

2018年9月5日付 中外日報(社説)

東京都は2020年東京五輪の「経済効果」を18年間累計で約32兆円とする試算を先頃発表した。日本総研は25年万博とIR(カジノを含む統合型リゾート)の大阪招致が成功した場合の経済効果を6兆円超と推測。橋下徹氏は「経済効果だけみても、やらない理由がみつかりませんね!」(「橋下維新ステーション」17年12月4日)とコメントしている。

北上山地の地下にILC(全長20キロの加速器)を建設する計画では文部科学省が最近、経済効果を2兆6千億円超と試算したと報道された。これに対し、地元・岩手県のILC推進協議会が5兆7千億円余とする試算を発表した。同協議会は県商工会議所連合会など経済界のトップが役員に名を連ねる。5千億円を超える規模の大プロジェクト誘致への期待が強く伝わってくる。

ところで、科学の分野では、小柴昌俊氏のノーベル賞受賞をもたらしたカミオカンデ(岐阜県飛騨市神岡町・神岡鉱山地下)などの機能をはるかに凌駕するハイパーカミオカンデが700億円余の建設費で計画中だが、ノーベル賞の実績があるためか、経済効果の議論はあまり聞かない。そもそも自然科学の研究施設に対し、目先の「経済効果」を強調することには違和感がある。

今の政権は人文系教育を冷遇する志向を持つ。敗戦直前の我が国では総力戦体制下、私学、特に人文系高等教育機関の統合整理が国策として検討された。それを思えば現今の人文系軽視は嫌な傾向だが、理科系でも「すぐ役に立つ」ことが重視され、予算配分で基礎的研究は分が悪い。ILC誘致で地元経済界が雇用創出、技術の応用、観光資源への活用など経済効果をアピールする狙いは分かる。

しかし、「経済効果」がある程度の客観性をもって示し得るのは事業・イベントなどに伴い動く金の額であって、しかも、受益者にとっての希望的観測が多く含まれることは経済効果の試算額に上下の幅が極めて大きいことからも明らかだ。それに、直接の受益者はやはり特定の業界に偏る。雇用創出その他の波及効果があるとしても、ネガティブな影響の可能性はあまり算入されない。

「経済効果」は、公共の利益の客観的指標といったイメージで扱われることが多いが、宗教者の立場から見れば、それが普遍的な価値の基準ではあり得ないことは明白だろう。しかし、知らないうちに宗教界でも「経済効果」に類した発想に馴染んでいることはないだろうか。幻惑されないよう気を付けたいものだ。