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紙の文化を大切に 焼却された大学の蔵書

2018年11月2日付 中外日報(社説)

先日のテレビ番組で、愛媛県にあるA大学の図書館の書庫の映像が放映された。ほとんど空っぽの書棚が並んでいる。設立を急ぎ過ぎたと批判された私立大学であり、蔵書の整備が遅れたらしい。

同じ日に届いた日刊紙には、論説委員執筆の短いコラムが掲載されていた。高知県のB大学の図書館についての論評である。古くなった建物を改築したが、書庫が狭くなったので、蔵書の一部の3万8千冊を司書立ち会いで数回に分けて焼却処分した。これは現代の焚書ではないか、という内容である。

同じ四国の大学で、一方では蔵書が不足し、一方では蔵書を持て余していた。学部構成は違っていても、一般教養に関する図書などは融通し合えるものがあるのではないか。話し合って、焼却を避ける方法はなかっただろうか。

消息通に聞くと、B大学では図書館改築に際して蔵書を学習に生かすための部屋を広く取ったために、書庫のスペースが削られたという。蔵書のラベルを貼ったまま古書として売却するのはまずいとも考えたらしい。

焼却した3万8千冊のうち1万8千冊は、同一書籍の複数保存を整理したというから、やむを得なかったともいえる。だが残り2万冊の内容を聞いて驚かされた。例えばその一つは「自由民権運動に関する文献目録」である。明治維新後、高知県は自由民権運動の中心の一つであり、板垣退助らと共に議会開設を目指す人々の来遊が盛んであった。その記録が失われたのだ。

さらにまた惜しまれるのが、鹿持雅澄の『萬葉集古義』だ。雅澄は幕末の土佐藩の国学者で、万葉集全巻を読み解いた功労者とされている。

万葉集は仮名文字がない時代に編まれ、全編が漢字表記であるため表意文字と表音文字が混在し、解読が難しい。雅澄は率先してそれを読み解き、古代文学研究者に光明をもたらした。

雅澄の名は一般には広く知られていないが、国文学界では「彼がいなければ、柿本人麻呂や大伴家持の名歌が広く愛誦されるのが大幅に遅れただろう」と評価されている。

B大学図書館の司書は、郷土の誇りともいうべき文化遺産を、ためらいもなく焼き捨てたことにならないだろうか。

図書館の蔵書が重くてかさばるのは事実だが、先輩学者の貴重な遺産である。B大学の学長・教官は所蔵する「紙の文化」を後世に伝える責任を担っていることを、司書ともども自覚してほしい。