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妊娠中絶をめぐり 「小さないのちを救う」とは

2018年11月14日付 中外日報(社説)

出産しても事情で育てられない新生児を預託する「こうのとりのゆりかご」を各地に広めようというNPOが兵庫県で開いたシンポジウムで、一般参加者である産科医から人工妊娠中絶をめぐって真正面から対立する発言が飛び出し、生まれる前のいのちに宗教者がどう対応するのかという重い問題が改めて浮き彫りになった。

「ゆりかご」は11年前、熊本市の慈恵病院でクリスチャンである院長が設置したもので、これまでに137人の乳幼児が預けられて養子縁組などで育てられ、場合によっては遺棄されたかもしれない多くの命が助けられている。シンポジウムは「小さないのちを救う」という理念で開催され、代表のカトリックの医学者は日本で中絶が非常に多い実態を指摘した上で、ローマ教皇の最近の一般謁見での言葉を引き、「中絶はこれから花開こうとする蕾の無垢で無防備な命を殺す行為だ」と主張した。

これに反論したのは、長野県でクリニックを開業し、提供卵子による非配偶者間体外受精や代理母による出産、着床前診断による受精卵選別など生殖補助医療で産科関係学会の規定を無視して突出した措置を続けている著名な医師。講演などで生命倫理について独自の提起を続け、宗教界にも多大な論議を巻き起こしているこの医師は、不妊治療の副作用で双子以上の多胎妊娠となった妊婦に対して、出生前診断で異常の恐れがあると判断された胎児のケースも含め選択して中絶する減胎手術をしていることを説明した。

「9胎もの例があり、母胎に危険が及ぶ。全部産むか全部中絶かと迫られ苦しむ母親に助けを求められたら、減胎で一人でも産ませて助けるのが医師の役目だ。キリスト教会で一律に中絶を認めないなどと言わないでほしい」と語気を強めて主張したのに対し、主催側からは明確な返答はなかった。

医師が障害を持って生まれることへの不幸視を容認し、「殺人はいけないが自衛の戦争もあり、世の中にはいけない事でもしなければならないこともある」と、問題があっても現実を“前提”とする姿勢なのに対して、NPO側は妊婦への電話相談などで「いのちの大切さ、産むことの幸せと喜びを説く」と、論議は擦れ違った。

「ゆりかご」の代表が「ダウン症の子供が生まれた家庭も幸せになっているということを伝える」というように、宗教者が生命の価値を訴えるとともに、どんないのちも区別なく自由に産むことができ、輝いて生きることができる社会の構築に向けた実際の取り組みこそが重要だろう。