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温かみ示す宗教者 「助けて」と言える社会を

2019年2月22日付 中外日報(社説)

望まぬ妊娠や出産などの悩みを24時間受け付け、母子を救う面談型相談施設「小さないのちのドア」が神戸市の助産院に開設され、着実な成果が上がっている。匿名で新生児を預かる「ゆりかご」と違い、電話や来所で直接話を聞いて支援する形にしたのは、赤ん坊の生命だけでなく、様々な困難な事情で妊娠・出産を受け入れられず、預託すれば周囲の非難や後悔に苦悩する妊婦や母親のためにも――との助産院院長の思いからだ。

相談の多くが思いがけぬ妊娠と医院にも行けない悩み。背景には貧困・生活困窮や複雑な人間関係の苦悩がある。連携する産科医の受診を勧め、離婚やDVなどの問題を抱える女性には法律家も紹介する。新生児をどうしても育てられない場合は児童相談所や協力関係にある養子里親縁組の団体に引き継ぐ。トラブルを抱え周囲から中絶を迫られた妊婦には、産み育てる選択のための制度を示した。

浮かび上がった問題は、誰にも相談できない、相談したところでどうしようもないと諦めていた人が多いことだという。もし相談窓口がなければ、中絶や乳児遺棄につながりかねない。大きなお腹を抱えて不安にさいなまれ絶望する女性たちに寄り添うクリスチャンの院長は「世の中は冷たいばかりじゃないって、多くの人に知ってほしい」と強調する。

大阪府羽曳野市で金光教教会長が設立した困窮者用のシェルターでも同じような話を聞いた。生活に追い詰められ住む場所もなくした揚げ句、妊娠中絶まで思い詰めた若い夫婦が役所との連携で救われ、生活保護を受けて出産した。夫婦は「苦し紛れに声を上げるまで、助けてと言ってはいけないと思っていた」と、支援の仕組みがあることさえ知らなかった。高松市で子ども食堂を運営する僧侶は「福祉の制度を知らされていないシングルマザーが多い」と嘆く。

日本では行政の支援制度のほとんどが当事者による申請主義だ。北九州で野宿者や生活困窮者を支援するNPOを運営する牧師は、「助けてと言えた時が助かった時」と語る。弱者のセーフティーネットが破れたゆがんだ社会で、命の危機でも「自己責任」を押し付けられ、「助けて」とさえ言えない現実。そこで「逃げ遅れた者同士」が助け合う「弱さの連帯」を原点とし、できるだけ多くの人とつながることで「助けてと言える社会」を目指す。いのちのドアの院長が「ここへ来て休んでもらうだけでも安心する母子がいます。人の温かみを伝えるのが私たちの役目。困っている人がいたら助けたい」と言うのとも同じだ。