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文化財の未来を見据える京都国立博物館館長 佐々木丞平さん(75)(2/2ページ)

2017年4月12日付 中外日報(ほっとインタビュー)

1895年に完成した京都国立博物館明治古都館(旧帝国京都博物館本館)前に立つ佐々木館長
1895年に完成した京都国立博物館明治古都館(旧帝国京都博物館本館)前に立つ佐々木館長

京博では仏像供養法要をされているそうですね。

佐々木年に1度しています。私たちは仏像を文化財として展示するんですけれど、実際には信仰の対象であり、「モノ」として扱うのは気持ちの上で避けなければならない。本来のあるべきお堂ではない会場にいてくださっても、仏さまの精神がきちんと宿っている。私たち自身は、そういう気持ちで接しなくてはならないと考えています。

本当の意味での鑑賞というのも、仏さまの魂に触れることだと私は思います。「どういうふうに作られているのだろう」と見るのも楽しいことで必要だと思いますが、造形の美しさを通して仏さまの魂、核心に触れることが重要だと思います。氷山に例えれば、まさに水面下の部分に当たるわけです。造形のきれいさは氷山の一角であり、本質はその奥にひそむ仏さまの魂だと思います。

野菜で釈迦入滅の光景を再現した伊藤若冲の「果蔬涅槃図」複製画が、総本山誓願寺(京都市中京区)に奉納された時、茶化した絵のようにも思えたのですが、違う見方を提示していましたね。

佐々木見たところはそうなんです。ですが、若冲は青物問屋に生まれ、野菜を取り扱ってきた。自分や家族がそれで生きたことへの感謝、祈りがあるんですよね。野菜たちに人間が感謝を捧げる場を設定したと見た方が、私は良かったと思うんです。

作者の心情を考えることは、よくあるのですか。

佐々木常にそうですね。ある作品のうち、私たちが目にしているのは、実は一部分なんです。例えば氷山が浮かんでいるとします。見えているのは一部で、水面下にものすごく大きな部分があり、目に見える一角を支えている。意識しなければ分からない大きな、深いものがあるわけです。作者の人生や歴史が渦巻いているんです。そこへの意識がなくては、本当に作品を理解できない。

ただ、勝手に想像しただけでは迫れない。だからあらゆる資料を総動員しながら、実証的に水面下の部分を正しく把握することになるんです。見えないものですから、いいかげんなことをしようと思えばできる。

見えない作者の真意をきちんと理解してあげないといけないという、研究者側の態度が重要なんです。

文化財保護に対する私たちの取り組みは、十分といえるでしょうか。

佐々木十分かというと、決してそうとはいえません。廃仏毀釈のような時代ではないですが、文化財を守る、修理するということで、どのお寺も困っておられますよね。お寺さんの所有物であっても重要なものは国の宝であり、個人や寺単体で支えきれないのであれば、国全体で支えていかないといけない。文化財は日本のアイデンティティーであり、その上に新しい文化が形成されていきます。土台がなくては、新しい文化という建物を築くことができないんです。

そういう意味で、国がある程度サポートしなければならない。文化国家と呼ばれるような先進諸国に比べ、日本が割く予算はあまりにも少ない。フランスは国の予算の1%は使っていますが、日本の場合は0・1%です。

予算措置を改善するためには、国民の理解が必要になりますね。

佐々木まさにそうです。京博は、文化財を守る基地としてスタートしました。後半の60年は、敷居を低くして、関心を持っていただこうとしてきました。これからは、文化財のために国民に声を上げていただき、サポートを頂くための働きをしていかなくてはいけませんね。

もう一つは非常に大きな問題ですが、教育です。子どもたちが反射神経で「文化財が大事だ」と発言できるような人間に育っていってほしいと思います。

京博の今後をさらに教えてください。

佐々木最近、大きな地震が目立ちます。文化財防災という立場で、被害を最小限にするための予防も含めて、役割を果たしていかなくてはならないと思います。もし被害を受けたらどう対処すべきか、京博がその指令塔にならないといけない。連携して、情報を共有できるシステムができれば、京都だけでなく、関西圏、あるいは西日本全体で災害時に文化財を守る役割を果たすことになるかもしれない。それがうまくいけば、全国に発信できると思っています。