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差別なき民族共生社会を目指す 郭辰雄さん(50)(2/2ページ)

2017年6月28日付 中外日報(ほっとインタビュー)

大阪・鶴橋のコリアタウンを案内する郭さん㊧。コリアNGOセンターが取り組むコリアタウンでのフィールドワークの参加者は年々増加している
大阪・鶴橋のコリアタウンを案内する郭さん㊧。コリアNGOセンターが取り組むコリアタウンでのフィールドワークの参加者は年々増加している

それを克服するには。

法律的な観点から言うと、日本には在日外国人への差別はもちろん、部落差別、障害者差別なども含めて、差別を禁止し撤廃するための包括的な法律がなく、その法整備が必要だと思います。

ヘイトスピーチは明らかな人権侵害ですが、何をヘイトスピーチと判断するかは難しい。表面的な言葉だけを問題にしてしまうと、文言を巧妙に変えることで言い逃れを許してしまいかねません。ですからヘイトスピーチを根絶するためにもその規制だけではなく、人権・差別への理解を深めていくことが大切です。

郭さんは民族名を名乗っておられますね。

実は大学までは日本名を名乗っていて、自らが在日だと友人にも明らかにしていませんでした。だから子どもの頃は家では在日、学校に行くと日本人という二つの顔を使い分ける生活でした。

ところが、高校2年の時、教育実習に来た在日の先生が自己紹介で黒板に大きな字で民族名を書き出して驚きました。「私は在日」と堂々と名乗る人を見たことがなかったのです。それで「自分を隠さなくても生きていける道がある」と気付きました。

その後、在日の歴史や現状などを学び始め、「在日は恥ずかしいことではない。自分は自分でいい」と思えるようになり、大学1年で名前を変えました。

在日の現状は。

韓国・朝鮮籍の人が50万人弱、そのうち約3分の2が旧植民地出身者とその子孫、約3分の1が国際結婚や商用、留学などで滞在するニューカマーです。それ以外に「帰化」によって日本国籍に変わった人が30万人程度だといわれています。また在日の8~9割が日本人と結婚し、日本籍・韓国籍を持つダブルの子どもたちも増えており、国籍や歴史的経緯からも在日は多様化していますね。

生活の変化は。

鶴橋の場合で言えば、植民地時代から朝鮮人がたくさん暮らし、昔は「朝鮮市場」と呼ばれていました。

「コリアタウン」と呼ばれるようになったのは1990年代以降です。88年のソウル五輪を機にキムチなど韓国文化が広く日本に普及し始め、食材などを扱う店舗が増える中、朝鮮市場の集客と街の活性化をどうしていくかが切実な課題となりました。

そうした変化の中で在日と日本人が共生する「コリアタウン構想」をコンセプトにしたまちづくりが進められ、双方で様々な交流をしながら街の活性化に努めています。

行政も「共生社会の実現」を掲げていますね。

コリアNGOセンターでは「共生・人権」をテーマにしたコリアタウンのフィールドワークプログラムを行っているのですが、昨年初めて参加者が1万人を超えました。やはりヘイトスピーチ対策法の施行で人種差別を教育で取り上げる意識が広く共有されてきたと感じています。

「共生」の要諦とは。

人間は差別意識を根源的に抱えています。性別や出身地域など自分とは異なる属性を持った人を差別する感情が出てくる。

「共生」は「ケンカせず仲良く暮らしましょう」ということではない。一人一人が異なる属性を持っている以上、意見の違いは生まれます。

でも「摩擦が起こるのは悪いこと」となれば、対立や摩擦を見せなくするような力学が働き、結果としてマイノリティーの存在は消されます。「嫌なら朝鮮へ帰れ」という言葉を浴びせられ続けた在日の歴史がまさにそうで、それは相手の尊厳を否定することです。まず自分と異なる他者と向き合う姿勢が大切です。

そのためには「寛容と対話」を通してお互いの「違い」を乗り越える努力を続けなくてはならない。「共生」はそのプロセスそのものです。それに対し、ヘイトスピーチは相手の存在を全否定するのが前提になっている。それでは対話は成立しません。

対話は変化を促しますが、人間は変化に不安を感じる生き物でもある。

自分を守るために「自分」というものに固執し、他者との関係に臆病になるということは確かに多い。しかし、大切なのは「自分が何をやりたいのか。そして何を目指すのか」だと思います。

在日にも「在日はこうあるべきだ」とステレオタイプ的に考える人は多くいました。けれど、それに固執するのがその人の幸せにつながるのか。物事は常に変化している。何かを守るためには変わらなくてはなりません。

ヘイトスピーチをめぐる問題を機に、私は障害者やセクシャルマイノリティー(性的少数者)など他分野の方々と人権や差別について共に考える場に参加することが増えました。そして、それを通して新しい世界が広がったという感覚があります。

「共生の実現」という私の考えは変わりませんが、視野がどんどん広がっていく。対話がもたらしてくれる変化をそう考えています。