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機械論的生命観に疑問を呈する生物学者 福岡伸一さん(57)

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2017年7月12日付 中外日報(ほっとインタビュー)

「動的平衡」で生命を問い直す

生命の捉え方に「動的平衡」という考えを導入した。生命をパーツの集合体と考えるのではなく、流体のように絶え間なく変化し続けるものとする。

米国ハーバード大などで研究生活を送り、新たな遺伝子を発見するなど業績を挙げた。しかし、機械論的生命観に疑問を感じ、生命の柔軟性を意識するようになり、動的平衡の観点から「生命とは何か」を問い直す。

科学を分かりやすく説明することが科学者の責任と考え、一般向けの著作や翻訳を精力的に出版している。

(甲田貴之)

機械論的生命観に疑問を呈する生物学者 福岡伸一さん
ふくおか・しんいち氏=1959年生まれ。生物学者。2006年に科学ジャーナリスト賞を受賞。著書はベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』など多数。最新刊『新版動的平衡』(小学館新書)と『福岡伸一、西田哲学を読む―生命をめぐる思索の旅 動的平衡と絶対矛盾的自己同一―』(明石書店)が発売中。

「動的平衡」という生命観を提唱され、大きな話題となりました。

福岡我々が吐いた息を植物が吸収するように、生物は他の生物の一部を取り入れ、別の生物に返しています。生物の体だけでなく、地球全体が変化し続けています。絶えず動きながら、バランスを保っている状態を「動的平衡」と呼んでいます。それは生命を生命たらしめている一つの側面です。

動的平衡の考えは私独自のものではなく、地球上の生物はつながり流れているという、昔からある世界観を科学的な視点から言い直しているものです。

一般的に食べ物を食べることは車のガソリンに例えられていました。食物は体の中でエネルギーになると考えられていましたが、実際は体中に散らばって脳や骨、筋肉、臓器の一部になっていることを、ドイツ出身の科学者ルドルフ・シェーンハイマー(1898~1941)が明らかにしました。車ならば、ガソリンがハンドルやエンジン、タイヤの一部になっているようなものです。

体は、絶え間なく作り替えられているのです。昨日の私と今日の私は同じではない。久しぶりに会った人に「お変わりありませんね」なんて言いますが、1年たてば、物質的には全くの別人なのです。

その考えに至ったきっかけは。

福岡近代科学では、生物は細胞という部品、遺伝子という設計図などミクロなパーツの組み合わせによってできているという機械論的な生命観が主流となりました。

昆虫少年だった私も学問の世界に入り、機械論的な生命観の中で研究をしていました。ある時、私が新しく発見したGP2と呼ばれるタンパク質の働きを調べていました。遺伝子操作を行い、GP2を持たない、遺伝子が欠損したマウス「ノックアウトマウス」を作りました。例えばそのマウスががんになれば、GP2はがんの発生を抑止する作用を持っていることになります。

でも、生まれたマウスは何の異常もなく育ちました。多大な時間と高額な費用と労力をかけて、何の成果も得られず、大きな壁にぶつかったのです。

しかし、GP2という部品を失っても健康に生きるマウスを通じて、生命をパーツの集合体と見るのではなく、柔軟性を持ち、変化しながら、バランスを保ったものとして捉えることができるようになりました。