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「女性装」の東大教授 安冨歩さん(54)(1/2ページ)

2017年11月8日付 中外日報(ほっとインタビュー)

自分自身ではないもののフリ

2014年から完全に女性の装いで暮らしているが、「女装」ではなく、「女性装」と強調する。「女装」は男性が自らを男性として自己認識していることが前提。しかし、「女性装」は自らの心を安定させる服装が結果的に「女性の服だったから」と言う。

人間は「自分自身ではないもののフリ」をするがゆえに苦しむ。だが、多くの人はそんな空虚な概念に縛られて、我が身をそこに合わせようとする。「それは危険なことで、概念の方を取っ払う必要がある」と問い掛ける。

(池田圭)

「女性装」の東大教授 安冨歩さん
やすとみ・あゆみさん=1963年生まれ。東京大東洋文化研究所教授。日本が戦争に至った過程を満洲国の経済史を通して解明した『「満洲国」の金融』で日経・経済図書文化賞を受賞。著書に『合理的な神秘主義 生きるための思想史』など多数。

「女性装」はご自身の女性的な体型が一つのきっかけだったそうですね。

安冨それはきっかけにすぎません。縁が熟して「男性の格好をして暮らしていくことができなくなった」というのが実感です。

「縁」というのは。

安冨私は大学卒業後に大手銀行に勤めました。バブル経済の前夜だった当時、みんな血眼になって、余剰資金の不動産融資をしていました。つまりバブルを起こす仕事です。それも誰もがバブルの結末を予見しつつ、命を削ってまで働いていたのです。

なぜ人間は集団になるとそんなバカなことをするのか。数年で退職して大学に戻った私は最初に満洲国(現中国東北部)の経済史から日本が戦争という愚行に突入するプロセスを研究し、その後、非線形科学や複雑系科学、数理生態学、心理学、儒学、仏教学、哲学など様々な分野を渡り歩いてきました。

そこで分かったのは人間が「自分自身ではないもののフリ」をするのが諸悪の根源だ、ということです。それはつらく、ストレスがたまることで、それを我慢すると今度は他者にも向けるようになり、社会全体に「自分自身ではないもののフリ」が蔓延する。これが暴力の根源です。

それで私は「自分自身ではないもののフリ」を自分の中に見つけては、剥ぎ取ることを続けてきたのですが、その過程で「自分は男性のフリをしている」ということに気付いたのです。

「男のフリ」が苦しみの原因の一つだった、と。

安冨男の格好をするのが普通だと思い込めばそうしていられます。しかし、縁熟してそれが無理だと気付いてしまったので、続けられなくなった、ということです。

特異な行為を「普通」から見ると「なぜ」と思うかもしれませんが、本人にとってはおかしなことでなくて、逆に「なぜ、あなたは『普通』にしていられるのか」と聞きたくなる。

つまり「普通」の立場から「なぜ」と問う構図そのものを疑っている。

安冨我々は「普通」や常識の背後に確実な根拠があり、それにすがって生きようとしていますが、それは単なる思い込みにすぎないというのが、例えば仏教の「空」や「縁起」の論理ですよね。

この世界には縁起が働いていて、その力が集まって様々な物事が生起しているにすぎないから、それは流動的であり、いつでも変わっていく。「普通」はその中の一つの特異な状態にすぎない。しかし、特定の状態にこだわるから苦悩が生まれてしまう。

だから私の「女性装」も「縁が熟したから」としか言えません。なかなか分かってもらえないのですが。