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最澄の魅力を発信するサントリーHD代表取締役副会長

鳥井信吾さん(66)(1/2ページ)
2019年2月13日付 中外日報(ほっとインタビュー)

根底に息づく天地の報恩

天台宗総本山比叡山延暦寺(大津市)を支える「比叡山法灯護持会会長」を務める。2021年6月4日に祥当日を迎える伝教大師1200年大遠忌に向けて、今春発足する「最澄の魅力交流委員会」の委員長に就任し、最澄の魅力を広く一般に発信する考えだ。

延暦寺とは、祖父で創業者の鳥井信治郎氏(1879~1962)以来の縁だ。事業は「天地の報恩」という信治郎氏の精神を受け継ぎ、毎年4月に同寺の僧侶が国家安泰などを祈る御修法への支援を続ける。

(岩本浩太郎)

最澄の魅力を発信するサントリーHD代表取締役副会長 鳥井信吾さん
とりい・しんご氏=1953年生まれ。甲南大理学部卒。南カリフォルニア大大学院修了。83年にサントリーに入社、2003年から副社長。14年にサントリーホールディングス代表取締役副会長に就任し、現在はビームサントリー取締役も兼務する。マスターブレンダーとして、ウイスキーの味や香りを決める総責任者も務めている。このほか、大阪商工会議所副会頭、雲雀丘学園理事長、サントリー文化財団理事長など。

最澄の魅力とは。

鳥井最澄は「伝教大師」の名前の通り、目的・意義を周りの人に「伝える」ことに重点を置いていたように見受けられます。一人で突っ走るのではなく、皆が共に目的地に達することを非常に心がけていた方だったのではないでしょうか。そこに魅力を感じます。

最澄の著書『山家学生式』で「国の宝とは何物ぞ」と問うています。最澄はその答えとして「道心」「一隅を照らす」「能く行い、能く言う」の三つを挙げています。まず道心を持つこと。そして行動するとともにその目的をきちんと他人に伝えることで、多くの人を巻き込んでいこうと考えたのではないでしょうか。

この教えは仏教の世界にとどまらず、企業や政治、地域社会、家庭といったあらゆる場面に通じます。しかも現代社会にマッチした教えです。1200年以上も昔に比叡山でこの教えが生まれたことにはとても驚かされます。

創業者の鳥井信治郎氏は神仏を大変敬う方としても有名ですね。

鳥井信治郎が晩年に社内報に寄せたエッセーで「私の人生観のほとんどすべては母親の影響」と書いています。「自分は80歳になった今でも母親のことを憶うと涙がこぼれる。それだけ母親の影響が大きい」と言うのです。母親の愛情を満身に受けて育った彼は非常に幸せだったと思います。その幸運さが彼の経営の原点になったのでしょう。

彼は経営において「やってみなはれ」という積極姿勢を貫いた一方で、自分の事業は「天地の報恩」とも言っています。事業は天と地の恵みによって生まれたから、その恩に報いたい。母に感謝している、産んでくれてありがとうとまで言っている。

その母親が大変信心深かった。信治郎が幼い頃に流行の感染症にかかり、医者も見放した。その時、母親が神仏に一心不乱に祈ったところ奇跡的に助かった。信治郎は助かったのは母のおかげだと、改めて命をいただいたのだと感謝しています。

彼の根底にはその母親から受け継いだ信心深さがあり、自身も「宗教観に基づいた経営」と言っています。

明治維新で途絶えた延暦寺の御修法は、信治郎氏の支援で1921年に復興しました。

鳥井今年は復興から99年目となります。今でも毎年、サントリーの役員、支店長、工場長を中心に参列しています。

サントリーは自然の恵みを原料として扱う会社です。ビールとウイスキーは麦を、ワインはブドウを原料としています。天地の恵みなくして、自分がサントリーを創業することはできなかったと信治郎は考えました。

しかし、それは信治郎のみではなく、当時の大阪の商家に共通する考えだったのでしょう。石田梅岩や緒方洪庵らにも天地の報恩に通じる思想があります。そういう町人文化が彼の根幹に息づいていたのではないでしょうか。